初めてのカップヌードル
ふと気付くと、辺りは夕焼けに染まっていた。
「日暮れ時か……しかし、犯人に動きがあるかもしれない。引き続き、交代制で見張らせよう」
ガラ警部が、そう指示を出す。
「ガラ警部!周囲の山荘のご厚意で、宿泊させていただけるようになりました!」
そう、伝令が告げると、ガラ警部は「そうか。わかった」とそれを受ける。
「君たちはもう帰りなさい。……って、そうか。帰る場所が占拠されてるのか……警察と同じ場所で雑魚寝させるわけにもいかないし……」
「あ、大丈夫ですう!おじいちゃん、もう一つ別荘持ってるのでえ、そっちに行きますからあ!」
ウィバー部長はそう言うが、多分、また隣人の別荘に不法侵入するつもりだろう。
「そうか。なら……」
と、ガラ警部が言いかけたところで、何人かの隊員が、大きな箱を持って現れた。
「極東食品から差し入れです!なんでも、古代のかっぷらーめん?とかいうインスタント食品をリニューアルしたもののようです!」
私たちは、物珍しさもあって、箱の置かれた台を囲む。
「カップラーメンってまだありますよね?」
私が問うと、セロン先輩が、
「今、私たちが食べてるカップ麺とは、作り方が違うみたいね。確か、極東食品は、昔の中華料理を再現する会社でもあるのよ。でも……私も、食べるのは初めてだから、ワクワクするわ」
と、好奇心に瞳を輝かせている。
「?これは何だ?カサカサに乾いているようだが、このまま食べるのか?」
ガラ警部がガサガサとカップを振ってみせると、隊員が説明書を読みながら言う。
「えーと、沸騰したお湯をかけて、蓋を戻して、3分待って、食べるようですね」
「ほう。私たちの知るカップ麺は、レンジで温める必要があるからな。湯をかけるだけで良いのはなかなか画期的だな」
私たちは、魔力で温めたお湯を、カップ麺の容器に注ぐ。ふんわりと、醤油の良い匂いが辺りに立ちこめた。
「香りはジャンキーだけど、たまにはこういうジャンクフードも食べたくなるのよねえ」
部長が、待ちきれない様子でうろうろしながら言う。
「多分、今のカップ麺よりは美味しくないと思うけど……って、3分経ったわね」
セロン先輩が、自分のカップ麺を引き寄せた。私たちも、めいめいにカップ麺を持って、箸を取る。
「容器が面白いわね。このふわふわしたのも、ポリエチレンでできてるのかしら?でも、確かにこれなら火傷せずに済むわ……よく考えられてるものね」
セロン先輩が、感心したようにカップ麺を色んな角度から見ている。
私は、お腹がすいていたので、すぐにカップ麺に口を付けた。
「……うん。うん。ジャンクな味」
「そうね……特別美味しくは、ないんだけど、なんか癖になる味ね」
「そう?私は好きよお?この味」
私たちは口々に感想を言い合う。寡黙なオークのアジャリ先輩は、フーフーと何度も息を吹きかけて食べている。……猫舌らしい。
「この肉って、ミンチかしら?謎の中毒性があるわ。スープも澄んでて王道の醤油味よね」
「卵もふわふわでスポンジみたいですね。麺も、決して今のカップ麺よりは美味しくないんですけど、なんか、また食べたくなる味ですよね……」
「麺がふにゃふにゃだわあ!私は、あと1分短い方がきっと美味しく食べられると思うのお!」
気がつくと、報道のカメラマンが、私たちをズームで撮っている。女子学生が物を食べている光景は、数字が取れるのだろうか。というか、警察の人を撮って欲しい。
「ふあー、ごちそうさまあ!美味しかったあ!」
私たちは、空になったカップ麺の容器を、警察官が持ってきたゴミ袋に捨てた。ポリエチレン容器はリサイクルに回されるので、もちろんカップと割り箸は別々に分別して捨てる。
「さあ、今日は戻りましょうか。シュントたちも気になるわ」
その部長の声で、私たちはアジト……隣人の留守に勝手に侵入して色々と使わせてます、的な隣人の別荘に戻った。
「シュントたちは……っと」
と、再び画像転移をすると、なにやら騒がしい声が聞こえてきた。
『はあ!?食料がもうねえだと!?』
『は、はい……あとは、お米と、卵4個くらいしか……』
どうやら、こちらも食糧事情が変わってきたらしい。
『警察に持ってきてもらうか?』
普通顔が、思案して言う。
『でも、警察から食料貰うとか、かっこわるくねーか?今更って感じでよ』
ヤンチャ男が言う。
『あ、なんなら、俺、食べなくて良いですから。他の皆で分けて食べましょうよ?』
と、地味顔が提案する。
『いやいや~、そういうの止めろよ~』
『そうだよ~、俺ら皆でやってきたじゃ~ん!』
『あ、それなら、私が2個、スクランブルエッグで食べるわ。残り2個は他の子で分けなさいな』
女教師風が、そんなことを言い出したので、緊張の糸が切れた。
『てめえ!!今のこの状況で、何言ってんだ!!』
ヤンチャ男が、ついに、女教師風に銃を向けて、怒りをあらわにしたのだった。




