シュント先輩のグルメ
ボウ!と、炎が舞った。
高そうな肉が、炎の中で踊る。それを真剣な目で見つめ、火力を調整しているのは、三つ編みに眼鏡の女子学生姿の美少年、シュント先輩だった。
『おおお!』
男たちのはしゃいだ声が聞こえる。
あの後、画像転移魔術を再び使って、私たち報道部一同が画面をのぞき込んだ瞬間、この画像が送られてきたのだった。
『すげーな!これが「フランベ」ってやつか!』
ヤンチャ男が興奮しながら言う。
『あの……危ないですから、もうちょっと下がってください……』
と、シュント先輩に言われ、男たちは『お、おお……』と素直に3歩ほど後ろに下がる。
『しっかし、こんなに凝った料理出されるとは、俺たちも思わなかったな!』
普通顔が、ダイニングの椅子に腰掛けながら言った。
テーブルの上には、オリーブオイルをかけたチーズをカットした、オードブルが並んでいる。おそらく、私たちがパンを買ってきたら、一緒に出す予定だったのだろう。
『顔も可愛いですしね。ホント、男にしておくにはもったいないですよね……』
地味顔が、しみじみと言う。
『そ、そうですか?ありがとうございます!』
シュント先輩も、そう褒められてまんざらでもなさそうだ。
しかし、それをイライラと見つめているのが、例の女教師風であった。
『ふんっ!でも、男は男じゃないのよ!子供を産めないなんて、所詮女には敵わないのよ!』
そう文句を言いつつ、ぐびぐびとワインをあおる。
『わっかりませんよー?魔法かなにかで子供作れたりして-?』
ヤンチャ顔がそう言い返すと、女教師風に『魔法とか革命軍の恥よ!』と、きっとにらまれ、『すいません……』と謝る。
『んー、まあ、魔法というわけではないですけど、一応男性が妊娠できるようにできる方法もあるそうですね』
シュント先輩がそう答えると、男たちは『ほらほら~!眼鏡君、話がわかるじゃないか~』と盛り上がってみせる。
――
「……何よこれ」
ウィバー部長が、そう呟く。
私たちも、「さあ……?」とだけしか言えない。
「あ!で、でも、シュントさんがもしかして、脱出する機会をうかがうために、薬か何かを混ぜた料理を振る舞ってる……とか……」
そう、セロン先輩が言うが、
「あいつは料理バカだから、多分、美味い料理作ることしか考えてないわよお!」
と、部長にたたっ切られる。
「部長にバカって言われたくはないですよね」
私がそう呟くと、
「ああん?」
と、部長がそれを耳ざとく聞きつける。
「しかし……警察も、何もしてこないですよね?普通、魔術か何かでばーっと捕まえられそうなものですが」
私がそう疑問を口にすると、セロン先輩が、それに答える。
「多分、魔術が効かないから、警察も下手に手出しできないのよ」
「魔術が効かない?それってやっぱり同じ魔術じゃないんですか?」
「アンチ・マジック装備といってね、装備品……たとえばネックレスとか指輪とかの装備を付けると、魔術に対して対抗できる装備があるのよ。……でも、普通、軍とかそういう特殊な環境でないと、手に入らないはずなんだけど……おかしいわね。銃もそうだわ。いわゆる魔力を持たない『一般人』がそうそう手に入るはずはないんだけど……」
「闇ルートってこともあるかもねえ」
部長が、セロン先輩の考察に口を出す。
「あいつら、一般人の中ではエリートだったかもしれないけど、そこで魔術を使う私たちのような人間の壁にぶち当たって、逆に魔術を嫌ったってところかしらあ」
私は、再度シュント先輩の画像に目をやった。
ちょうど、厚く切った肉をさらにスライスするところで、紫タマネギで作ったソースまでそばにはある。
「……しかし、手が込んでる料理ですね……」
「シュントの料理は最高よお!私の舌が証明するわあ!」
「うわ、珍しく金持ちっぽいこと言った……」
「ちょっと、ロロ、私の扱いどんどん酷くなってない!?」
そんな言い争いをしているうちに、料理ができあがったようだ。
『どうぞ、召し上がれ』
シュント先輩が、にこにこと笑いながら、皿を差し出す。
薄くスライスされた肉は、中まで火が通らないミディアムレア。タマネギとスパイスで作ったソースが、その肉を官能的に仕上げている。
『うんまそ~!』
『俺にくれ、俺に!』
『……私も、食べてあげても良いわよ?』
『姐さん、素直になってくださいよ~!』
シュント先輩は、『沢山あるので、大丈夫ですよ』と言いつつ、次々と皿に盛りつけた。
「いいなあ~……」
「う……わ、私も、こんな時なのに、お腹すいちゃう……」
「確かに、美味しそうですよね……」
私は、グルメ漫画よろしく、このままグルメで相手の腹を満たしたら、改心して自首してくれないだろうか、とも思っていた。
まあ、それはないのだが、「同じ釜の飯を食った」ということで、犯人とシュント先輩には奇妙な連帯感が生まれていたのだった。




