「教育」
『えええ……』
どん引きしたのは男たちも同じのようで、女教師風のあまりの剣幕に、3人で身を寄せる。
『……わかりましたよ。「教育」ですね。やりますよ、「教育」』
そう言って、ヤンチャ男が何か他の2人に合図すると、2人は「いやいやいや」とヤンチャ男に詰め寄る。
『嫌ですよ、俺ら』
『俺だって嫌だよ!お前やれよ!』
『……でも、今更「教育」を止めるってのも、もうできないだろ……』
最後に、普通顔の男がそう言うと、2人も「ああ……」と、黙り込む。
『ちょっとおおおお!!やりなさいよ!!早くやりなさいよおおおお!!私の命令が聞けないっていうのおおおおお!?やっぱりこの女に、たぶらかされてるんだわ!!』
女教師風は、そう言って、派手女の胸元をつかんで横倒しに倒すと、その体にまたがって「教育!教育!」と叫びながら殴り始めた。
鼻血が飛び、美しかった派手女の顔が、どんどん青黒く変化していく。
『教育!!教育!!あなたは間違ってるのよ!!間違ってるから罰を与えてるのよ!!教育!!教育!!さあ、あんたたちもやりなさいよおおおおお!!』
派手女は、薬がキマっているのか、特に抵抗もなく、ぼーっとされるがままでいる。そして、仕方なさそうに、他の男2人も派手女の胴や足を殴ったり蹴ったりし始めた。
『教育!!教育!!』
『教育!!教育!!』
『教育!!教育!!その感じよ!!痛いのは殴ってる私たちも一緒なのよ!!あなたは革命戦士として生まれ変わるのおおおおおお!!「教育」が終わったとき、あなたは真の戦士になるのよおおおおおお!!』
派手女の、細かった体が、明らかにボコボコと凹み、突出する。やがて、派手女は、ごふっと真っ赤な血を吐き出した。
『教育止め!!……ふう……これで、あなたは真の戦士だわ。おめでとう。さて、この女を外に出すわよ』
その言葉に、私たちはぎょっとした。こんな雪の中、ぼこぼこにされて放り出されたら、本当に死んでしまう。
ウィバー部長は、「ちっ……警察はまだなのお!?」とそわそわしている。
――次の瞬間。
ぼわっと、画面全体に、蒸気の霧が発生した。それを合図にしたかのように、ばたばたと複数人が駆け出す音がする。
『きゃっ!!……おのれ、魔術使いがあああああああああ!!』
『うわっ!なんだこれ!!』
『ちょっ……マジで何も見えないよ!?』
男たちと、女の声がして、どうやらセロン先輩が目くらましの魔術を展開したのだと気付く。しかし。
『うわあっ!』
『シュント!?』
どすん、と音がして、おそらく転んだのだろうシュント先輩が、ずりずりと画面に引き戻される。
分厚い眼鏡の奥の瞳は、美しいブルーの、大きな瞳。とてもハイティーンの男子には見えず、女装しているからか、美少女女子高生に見える。
「ちょっと、これまずいわよお……」
画面を見つめながら、部長が呟いた。
と、同時に、外から警察車両が到着した音が聞こえてきた。
『ちょ……警察だよ!』
『マジでやべえな……とりあえず、こいつを使うか!!』
そう、ヤンチャ男が言うと、「立てこら!!」と、シュント先輩の華奢な体を羽交い締めにして、窓から顔を突き出させた。
「お前ら、銃を置け!!一度武装を解除して話をしよう!!」
警察の、スピーカーの音が聞こえる。若い女性の声だ。私たちは、玄関を開けて、外の様子をうかがった。
警察車両が4台、それに、覆面パトカーなのか、普通の車が1台。そして、装甲車と、その前に大盾を持った特殊班が並んだ。
「武装解除してはいそうですかって話するわけねーだろ!!お前らバカか!?」
ヤンチャ男がそう叫ぶ。地味風男が警察の方に銃を向けていて、ヤンチャ男がシュント先輩に銃を突きつけている。
「こっちにはなあ、人質がいるんだよ!!女子高生が警察の前で殺されたりしたら、大失態だよなあ!?」
「あ、僕男です」
「え、そうなの?……じゃあ、男子高生だよなあ!!」
……どういう会話してるんだこいつら。
まあ、それはいいとして、男たちはログハウスに立てこもるようである。
「……まずいわあ。あっちにはかなり重傷の怪我人がいるし、シュントの脱出失敗で、犯人を刺激することになっちゃった。……2人帰ってきたのは幸いねえ」
そう、部長が言うので、警察側に目をやると、毛布にくるまれた、人質だった2人が、警察に保護されていた。
「シュントを無傷で取り返す方法……ねえ。しかも、犯人側にもなるべく傷を負わせたくないわあ」
「え、そうなんですか?」
「え……ロロ、あなた、普通に犯人を怪我させても良いって思った?」
「え?ええ。だって、犯人ですし」
「やだこわい。何この子。サイコパスう?」
部長に怖がられてしまった。でも、警察も、そんな感じではあるし、多分私の考えの方がおかしいというか、過激派なのだろう。
「でもそうね。私もロロくらいの時はそうだったかもねえ。とりあえず、警察と合流しましょう。ここにいても仕方ないわ」
そう言って、部長は壁に描いたウィンドウをそのままぱこっと取り外す。外れるんだ、それ?
「一応、今までの記録はバックアップに残ってるわあ。これを、警察への手土産にしましょ」
部長と私は、警察の方へと駆けだしていった。




