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少女ロロの事件記録手帳  作者: 烏丸牙鳥
合い言葉は「RED」
31/42

ノース地区買い出し中

――翌日。


「一番後輩だから」という理由で、自ら志願した私は、唯一パン屋への道を知っているウィバー部長と、雪道を歩いていた。

 ちなみに、部長は、制服にピーコート。その上に、またあの黒いマントを肩からかけている。


「部長、そのマント、お気に入りなんですか?」

 さすがに「何のコスプレですか?」とは失礼すぎて聞けなかったので、やんわりとそう問いを投げかける。部長は、舗装された道路に魔力で雪玉を作り、靴裏でそれを転がして遊んでいる。

「んー?これ?いいでしょ?怪人20面相!なんて」

 そう、自慢げに言ってくるので、

「あなた、探偵じゃなかったんですか」

 とツッコんだ。

「探偵じゃないわあ。名・探・偵!名を付けるのと付けないとでは全然違ってくるから、ちゃんと覚えるのよお!」

 と、部長は言う。はいはい、名探偵ね。


 その後、私たちは、パン屋の扉をくぐった。

「はあ~、あったかい……」

 部長は、室内の暖房の効いた気温をしっかりと堪能する。私も正直、歩いて15分ほどだったが、体は冷えていたので、それがありがたかった。


「あらあ、センセイのお孫さんじゃないの」

 店の奥から、パン屋の女将らしき恰幅の良い女性が顔を覗かせて、そう部長に話しかけた。

「あは、今日は部活内旅行に来てるのよお!」

「そういえば、ウィバーちゃんは部活の部長さんなのよね。3年生なのに、偉いわ。今日も美味しく焼けてるから、沢山買っていってちょうだい!後輩も沢山できたんでしょ?」


 部長は、笑顔で脂汗を垂らしている。そりゃそうだ。部員数5人、しかも後輩は1年生の私だけ、という状況である。

「え、ええ!この子!ロロも新入生の後輩なのお!」

 ……私の紹介で逃げやがった。私も、紹介されたので、一応「部長がいつもお世話になっています」と挨拶をする。

「あらあ、可愛らしい。あたしも、昔は魔術学校に通っていたのよお。ほら、ノース地区は雪の女王様々だからね。皆、雪の女王には感謝してるし、雪の女王に憧れてウィザードになる!っていうのもこの辺では当たり前なのよねえ」

「なるほど」


 私は、そういえばノース地区の魔術学校は、ウィザード専門学校だったと思い出した。「雪の女王」という偉大なるウィザードがいるということは、それだけウィザードに憧れている人も多いのだろう。


「おばちゃん、名物の『中火炙りパン』をロロに食べさせてあげたいんだけどお……」

 と、部長がねだる。気っぷの良いらしい女将は、「あいよ、試食ね。切ってあげるから待ってて」と、パン切り包丁を手に取った。


 ほかほかのパンの一切れを受け取ると、私は我慢できずにぱくりと頬ばる。モチモチして、しかも不思議なことに、中がカリッと焼けている。面白い食感だ。

「どう?これね、魔力でパンの中に火を通して焼いたパンなのよ?だから、『中火炙りパン』ってわけ」

 女将の説明で、私は納得がいった。なるほど、火加減の「中火」ではなく、中から焼いたという意味の「中火」らしい。


 私たちは、他にもパンをいくつか見繕って、会計を済ませた。

 女将は「あら、それで足りるの?」と、まだ報道部が大規模だと思い込んでいるようだったが、部長は「他の子は、二日酔いが酷くて、食欲ないのよお」と誤魔化していた。女将は、「あんまり後輩に飲ませちゃだめよ?」と笑っていたが、実際後輩は私1人である。


「……なんで嘘つくんですか、部長」

 帰り道、また雪がちらちらと降り始めた道を歩きながら、私は隣の部長にちょっと意地悪したくなった。

「だってえ!一応、あのおばちゃんは、私のこと『センセイの孫娘』って認識なのよお!私に人望がないってバレちゃったら、おじいちゃんの名誉に傷が付くじゃない!」

「実際、人望があれば良かったじゃないですか」

「じゃあ聞くけど、人望ってどうやってできるんですかあー!?説明してみせてくださあい!」

「人をやたらと振り回さない、急にわがまま言わない、自分で名探偵とか言わない、傲慢じゃない、謙虚に生きる、適切なリーダーシップを取る、普段からポンコツ加減を直す。簡単じゃないですか」

「私の性格、全否定っ!?」

 

 部長は、「がーん」と口で傷ついた効果音を鳴らす。

 ……自分の性格はわかってるのね。


「まあ、人望ないのが部長らしいとは思いますけどね。逆に、めちゃくちゃカリスマにあふれた部長とか、気持ち悪いです」

 私がそう、フォローのつもりで言ったのだが、

「そういうことじゃないでしょお!?新聞だって、号外こそ売れたけど、また読者100人くらいに戻ったのよお!?黒字にしなきゃでしょお!?」

 と、嘆いていた。


「……と。着きましたね。皆、お腹すいてるでしょうね……」

 私が、ログハウスの玄関のインターフォンに手を伸ばした瞬間、それを部長の手がパシッと払う。


「え、部長……?」

 そのまま、部長は私を、敷地内の門にまでぐいぐいと腕を引っ張って、玄関から距離を取った。

「……鉄の匂いがするわあ」


 その一言で、私も、緊張を強めたのだった。

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