ぼくのかんがえたたのしいりょこう
翌日は、皆でスキーを楽しんだ。
ピンク・水色のラインが入ったスキーウェアに身を包み、ゴーグルをかけた私たちは、軽く山に登っては滑走を繰り返した。
スキー初心者である私とウィバー部長は麓の方でのろのろと滑っていた。
私は、何事も普通程度にはできる方なので、それなりに滑ることができた。もちろん、ボーゲンでだが、そこそこ上手いとは自負した。
しかし、部長は、「きゃああああ」と、ボーゲン状態で毎分2cmくらいの速度でずりずりと滑っている。いつも大型バイクでかっ飛ばしているとは思えない人の悲鳴である。
更に、止まって休んでいた際に、何を思ったか部長は、足をそろえたまま立ち上がってしまい、そのまま後ろ向きに滑走して、新雪の雪の中に突っ込んでいった。
そして、自分が「スキーやるわよ!」と言い出した張本人なのに、「もうスキーやめる!」と、半泣きで言って、ログハウスに戻ろうとしたので、慌てて止めた。
「もうちょっとですから!部長、もうちょっとやりましょう?ね?」
そんな、ぐずる幼稚園児をなだめる保母さんのように説得して、2日目はスキーで終わった。
三日目は、宴会をした。
昼間からビールやチューハイを飲みまくり、さらには「ウォッカのガムシロップ割り」というとてつもない代物を、皆で回して飲んだ。
その結果、本来なら酒には一番強いはずの、オーク族のアジャリ先輩が、一番に潰れた。このアジャリ先輩、外見以外オークらしいところ一つもないんですけど……。
アジャリ先輩の大きな体が、皆が集まるリビングダイニングからはみ出て、廊下にまで足先が出ている。
それを、「邪魔ねえ」と部長が足で蹴ってリビングまで戻していたが、アジャリ先輩はひたすら眠り続けていた。
おかげで、トイレに行くには、アジャリ先輩の太い足をまたいでいかなくてはならなくなり、皆、少しだけトイレを我慢してから行く、というルーティンができてしまっていた。膀胱に悪い。
しかし、アジャリ先輩の名誉挽回として言っておくが、アジャリ先輩は何も、車に酔ったり酔っ払って潰れたりするためだけの先輩ではない。このログハウスに来る前に、「ん、」と手を出すので、私が「?」となっていると、「アジャリが荷物持ってくれるって!」とシュント先輩がひょこんと顔を出した。
よく見れば、肩には部長の、左手にはセロン先輩の荷物を既に持っており、私の荷物も持ってくれる、ということらしい。
私は恐縮して「すみません……」と荷物を預けたのだが、アジャリ先輩は「うん、」とだけ言って、のしのしと雪道を歩いて行った。
そんな、女性を気遣うこともできる、紳士的な先輩でもあるのだ。
四日目は、特に何もしなかった。
それぞれの部屋で、ケータイ端末をいじったり、「好きに読んでいいわよお!」と部長に言われた、おじい様とお父様のコレクションであるらしい本を何冊か見繕って読んだりして、静かに過ごしていた。
さぞ堅苦しい本が並んでいるのではと思ったのだが、意外と文学作品でも新刊があったり、表紙絵がアニメチックなキャラクターが描かれた本も並んでおり、私はハッキリ言ってびっくりしてしまった。
しかし、この柔軟さこそがエリートがエリートたる証拠!と、感心したのだった。
この日の夕食は、鍋パーティだった。
というか、この4日間の夕食担当は、もっぱらシュント先輩だった。
シュント先輩は、料理を作るのが好きらしい。
「趣味、じゃなくて、作るのが好きなだけだよ!」
とは言っていたが、それは立派な趣味の範囲内に入るのではないだろうか。
「いつか、男でも女でも、好きな人ができたら、その人にご飯を作ってあげる人になりたいんだ」
と、シュント先輩は、少女漫画に憧れる少女のように頬を赤らめた。なるほど、シュント先輩はバイ……と。まあ、この世界、同性愛者も異性愛者もごく普通のことなので、今更バイだろうが何だろうが、私は驚かない。
しかし、シュント先輩は、考え方が乙女である。……いや、姿格好も乙女なのだが。恋に恋する感じはしている。
そこでぽつりと、私は、
「明日、帰るんですよね……」
と、呟いた。セロン先輩が、言いたいことを察してくれて、
「帰りたくなくなるわよね」
と答えてくれた。
「あれ?もう食料があんまりないや。明日の朝食どうしよう?」
シュント先輩が冷蔵庫を覗きながら言う。すると、もう既にできあがっていた部長が、
「明日の朝、買ってくりゃ良いわよお!この辺で美味しいパン屋さんがあるからねえ」
と、まだウォッカの瓶を抱きながら言う。
「そうね。今日はもう遅いし、明日の朝、パンを買ってきて、皆で食事してから昼頃出発しましょう」
「そうよお、明日パンを買って……パンを……パンの匂い……うっ……」
「ちょ、ちょっとウィバー!吐くならトイレ行ってよね!ここで吐かないでええ!」
不安だ。
私は、なんとなく、そんなことを思ってしまったのだった。
でも、本当に、この旅行は良い思い出になった。きっと、何年後かに、笑って話せる旅行になったのでないかと、そう、思った。




