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少女ロロの事件記録手帳  作者: 烏丸牙鳥
はじまりの物語
3/42

放課後ドッグ

「ロロちゃんお帰り~」

「おう、ロロ。帰ったのか」


 放課後もだいぶ過ぎたというのに、私の机には、2人の少女がいた。

 ルームメイトのキジャモと、あと一人。


 長いロングの青髪を、ツインテールにしてまとめている。基本的には私と同じく制服なのだが、シャツの上にニットセーターを着ていて、だぼだぼの珍しい靴下をはいている。しかも、スカートは超ミニといってもいいくらい、短くしている。化粧も、ばっちりだ。


 名前は、「シャンテ」といったか。キジャモの友達の一人だったが、何故かここ2週間ほど、この3人でつるむようになっていた。


「二人とも、先に帰ってれば良かったのに」

 私が帰り支度をしながら言う。が、二人は、

「えー?だって、ロロちゃん一人じゃ危ないよ?」

「そうだよ。あんた、テレビ観てないのか?街の方で通り魔が多発してるってやってるじゃねーか」

 と、答える。友達が心配してくれるのはありがたいが、無駄な時間を使わせてしまうのも気が引けた。


「通り魔って……寮までは歩いて5分じゃないの。先生達もいるし、学園内にいるうちは安全なんじゃないの?」

 そう、呆れて私は言う。キジャモとシャンテには悪いけど、この子たちは学科試験がいまいち良くはないのだけれど。平均的な私より点数が悪いと言うことは、そういうことだ。


「でも、無差別なんだよ?こわいよ!」

 と、キジャモが頭の花輪をいじりながら言う。しかし、そこでシャンテがぴしゃりとキジャモの手を払った。

「キジャモ!花を触るなって言っただろ!?花には少しの風すらストレスなんだからよ!」


 そう。シャンテは、花や精霊の声が聞こえるらしい。

 見た目はいわゆるギャルだが、これでなかなか心根の優しい子なのだ。2週間付き合ってみて、私はそう感じた。


「ドリアードなのに、花を大切にしないっていうのは……どうなの?」

 と、私がわざと辛口に言うと、キジャモは

「それは種族だもん!それとこれとは関係ないよ!」

 と、プンプンと怒ってみせる。


 私たちは、連れだって、寮の方に歩き出した。


「ふあ!もう17時だよ~。でも、もうすぐご飯だね!」

 キジャモが嬉しそうに言うので、私も微笑んで

「今日は何かな?寮母さん、料理上手だもんね」

 と答えた。

「あたしは甘いソースが乗ってるのは苦手だなあ。この間の、チキンのベリーソースとか意味わかんな……」


 と。ぴたりと。

 シャンテが口をつぐむ。


「?」

 私たちが、急に言葉を切ったシャンテに疑問を持つと。

「……ロロ!キジャモ!やばいよ!」

 と、シャンテが叫んだ。


「やばいって……?」

 と、私が聞こうとすると、シャンテが私たちの手首をつかんで、校舎の方へと逆戻りさせる。

「あ、わ、わわわっ!なんか追ってくるよ!?」

 と、キジャモが後ろを振り返りながら言う。私たちは、校舎に逃げ込むと、玄関に鎮座している下駄箱の裏に隠れた。


「キジャモ、何か見た?」

 私が聞くと、キジャモはぶるぶる震えながら、

「犬だよ。大きくて黒い犬!」

 と答える。


「もしかして、ブラック・ドッグかもしれないね」

 私はそう言うと、息を潜める。


 ブラック・ドッグとは、精霊の一種である。犬の形をしていると言われるが、性格は凶暴で、特に人型の種族を襲う狂犬とされている。

「先生達は……ちっ!校舎の向こう側か。ブラック・ドッグじゃあ、結界が反応するかどうか……!」

 シャンテの言うように、校舎には結界が張ってあるが、それは中級以上の魔獣に限る。故に、強力な術式……たとえば召喚魔法などを行う場合には、それ専用のグラウンドが必要になるし、学校の召喚・調教科の生徒しかグラウンドを使うことは許されていない。

 ブラック・ドッグは下級魔獣だけど、その凶暴さで、私たちのような初等生にとっては一匹だけでも十分脅威だ。


「どうしよう……怖いよお……」

 キジャモが泣きそうな声で言う。シャンテは、舌打ちをすると、

「キジャモ!あんた、泣いてないで先生達を呼びに行って!ここは私とロロで食い止める!早く!」

 と、とんでもないことを言ってのけた。


「え……?私もここから逃げたいんだけど」

 と、私が主張すると、シャンテは私の頭をぱかんと叩く。

「あんたがこの中で一番、成績良いんだよ!あんたは残れよ!」

 ……つっこみを入れられてしまった。

「といっても、実技はシャンテの方が得意じゃん……私やっぱり、キジャモと一緒に逃げ……」

「あたしを置いていくつもりか!どんだけだよあんた!」

 また怒られてしまった。


「う、うん、待ってて、二人とも……!」

 と、キジャモが廊下を駆け出す。先生達のいる教官室はすぐそこに見えるのだが、空間魔術で空間を拡張させているため、結構な距離を走らなくてはならないのだ。


「こうなったらしょうがないわね……!」

 シャンテが、腰に差した剣を抜く。この剣は、初級戦士用の剣で、シャンテの目指しているのは騎士ナイトだということを私は覚えていた。

「じゃあ、私は、後ろから治癒魔法連発するから、シャンテ頑張って」

「頑張ってじゃないんだよ!あんたも一緒に叩くんだよ!」

 ちっ。後ろでできるだけ痛みを感じない職でいたかったのに。


 やがて、そんなことをしているうちに、結界からブラック・ドッグが現れた。

 たし、たし、と足音をさせながら、私たちを探している。


 と、そこで。

『おんや~?なんか楽しいことになってるねえ!』


 ヤツが、出てきた。こんな状況で!

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