愛しているからこそ
――翌日。
私は、いつも通りに3人で登校すると、真っ先にコキアの元に行った。
そして、「先輩方の茶番に付き合って欲しい」と言って、約束を取り付けた。コキアは、わかりやすいほど体を硬直させて、「じゃあ、15時30分に」とおどおどしながら言った。
その日の授業は、ほとんど耳に入らなかった。ノートは取ったので、後で、精神状態が安定したら読み返して復習しよう、と思った。
――放課後。
私は、コキアと一緒に、あのブエルの殺害現場に足を運んだ。
「あ、あの、ロロさん。人が亡くなって日が浅いのよ?ここに来るのは不謹慎じゃないかしら?」
コキアがそう言うので、私は、「そうかもね」とだけ言っておいた。
殺害現場には、何故か、黒くて長いマントを羽織った、背の小さなウィバー部長が先に着いていた。そして、コキアを見ると、「や、や、どうも」と挨拶をしてみせる。
……マントなんて着てる人、初めて見た。
「――さて、コキアさん。あなたの殺人事件の、種明かしをしましょうかあ!」
部長はそう言って、ずいっとこちらに靴先を向ける。靴は、私たちと同じく、革製のローファーだ。服装は、今日もアニメキャラのような、水色の襟に黄色いリボンのセーラー服を着ている。
「種明かし……?あの、私は殺人事件なんて、そんな……」
コキアがそう言うので、部長は「ふっふっふ」と不敵な笑みを浮かべ、かつんかつんとローファーを鳴らして、私たちの周りを歩き始める。
「15時30分。時間ね。あなたは、ここで、ブエルさんを殺したのねえ!」
コキアは、「はあ……」と、気のない返事をする。
「警察の人がそう言ってるんでしょうか……?でも私、1年生ですよ?魔術でトリックを使おうにも、そもそも魔術自体が上手く使えなくて……」
「そう。1年生ならね」
部長は、顎を上げて、肯定する。
「でも、あなたが、いわゆる『転生』を行った、元5年生だったらどうかしらあ?」
転生。それは、この規則ゆるゆるなNW学園において、一度退学した者も、再受験することができる。ただし、その場合は元が何年生であろうと、1年生の最初から始めることになる、という、かなりマイナーな入学方法である。……と、今回、セロン先輩に聞いた。
「元5年生なら、蘇生魔術だろうが、『結界』だろうが、大体の魔術は使えるわよねえ。でも、あなたはそのことを、ブエルに言わなかった、なぜなら」
そう、部長は言葉を切る。
「あなたは、ブエルさんを見て、一目惚れして1年生になることにしたからよお。おそらく、ブエルさんとは、学校説明会か何かで会ったのねえ?そして、彼女の、暴力的でヒステリー気質を見抜いて、タイプう!って思ってしまったのよお」
「暴力的でヒステリーが、コキアの好みだって言うんですか?」
私が口を挟むと、先輩は肯定する。
「そうよ。そして、暴力と、見下しと、無視。これこそが、コキアの感じる『愛情』そのものなのよお」
つまり――と、部長は、続けた。
「あなたの、ブエルさん殺害事件の動機は、ブエルさんを愛しているからなのねえ!」
コキアは、答えない。ぴくりとも、動かない。
「あなたは、ブエルさんを愛していたあ。だから、ブエルさんにどんなに辛く当たられても、それを愛情だと感じることができたあ。なぜなら、あなたは、あなたのお父様とお母様に、同じ事をされていたからあ」
そう、部長は言って、またローファーの先を変える。
「そして、お父様とお母様は、自分たちのしていることを正当化するために、あなたが幼い頃から、刷り込んだのよお。『殴るのも、蹴るのも、お前を愛しているからだ』『無視をするのも、あなたを愛しているからなのよ』と。そして、あなたは思ってしまった。いや、思い込んだのねえ。『殴ったり蹴られたりすることは、私は愛されているんだ。無視されるのも、愛しているからこそなんだ。私は父親と母親に愛されている!』と」
コキアは、動かない。
「あなたが虐待を受けていた証拠もあるのよお?知り合いの刑事に頼んで、サイコメトリーで読んで貰ったのよお。その刑事、敏腕でねえ。24時間以内だけじゃなくて、1週間も前の、『物体の記憶』を読めるのよお。そのとき、あなたは明らかに、虐待を受けながら、嬉しそうに笑っていたわあ。それは、あなたが虐待を『愛情』だと思い込んでいるからなのねえ」
「待ってください。それなら、逆の方がつじつまが合いませんか?ブエルにヒステリーを起こされた場合に『愛情だ』と感じるんでしょう?なら、ブエルがコキアに暴力をふるっていて、うっかり殺してしまった、というならわかりますが……。それとも、コキアは、実は心の底でブエルを憎んでいて、殺したんですか?」
私がそう聞くと、部長は「んん」と腕を組んだ。私たちの周りを歩くことは、もう止めていた。
「愛しているからよ。――あのねえ、ロロ。愛している人に愛情を返されたら、次にどう思うかしら?こう思うんじゃない?『愛情は愛情で返そう』と」
私は――ようやくわかった。コキアは、本当にブエルを愛していたのだ。そして、その愛は、一般的に見ると、酷く歪んだものだったのだ。




