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少女ロロの事件記録手帳  作者: 烏丸牙鳥
愛の殺人
26/42

愛しているからこそ

――翌日。


 私は、いつも通りに3人で登校すると、真っ先にコキアの元に行った。

 そして、「先輩方の茶番に付き合って欲しい」と言って、約束を取り付けた。コキアは、わかりやすいほど体を硬直させて、「じゃあ、15時30分に」とおどおどしながら言った。


 その日の授業は、ほとんど耳に入らなかった。ノートは取ったので、後で、精神状態が安定したら読み返して復習しよう、と思った。


――放課後。


 私は、コキアと一緒に、あのブエルの殺害現場に足を運んだ。

「あ、あの、ロロさん。人が亡くなって日が浅いのよ?ここに来るのは不謹慎じゃないかしら?」

 コキアがそう言うので、私は、「そうかもね」とだけ言っておいた。


 殺害現場には、何故か、黒くて長いマントを羽織った、背の小さなウィバー部長が先に着いていた。そして、コキアを見ると、「や、や、どうも」と挨拶をしてみせる。

 ……マントなんて着てる人、初めて見た。


「――さて、コキアさん。あなたの殺人事件の、種明かしをしましょうかあ!」

 部長はそう言って、ずいっとこちらに靴先を向ける。靴は、私たちと同じく、革製のローファーだ。服装は、今日もアニメキャラのような、水色の襟に黄色いリボンのセーラー服を着ている。

「種明かし……?あの、私は殺人事件なんて、そんな……」

 コキアがそう言うので、部長は「ふっふっふ」と不敵な笑みを浮かべ、かつんかつんとローファーを鳴らして、私たちの周りを歩き始める。


「15時30分。時間ね。あなたは、ここで、ブエルさんを殺したのねえ!」


 コキアは、「はあ……」と、気のない返事をする。

「警察の人がそう言ってるんでしょうか……?でも私、1年生ですよ?魔術でトリックを使おうにも、そもそも魔術自体が上手く使えなくて……」

「そう。1年生ならね」


 部長は、顎を上げて、肯定する。

「でも、あなたが、いわゆる『転生』を行った、元5年生だったらどうかしらあ?」

 転生。それは、この規則ゆるゆるなNW学園において、一度退学した者も、再受験することができる。ただし、その場合は元が何年生であろうと、1年生の最初から始めることになる、という、かなりマイナーな入学方法である。……と、今回、セロン先輩に聞いた。

「元5年生なら、蘇生魔術だろうが、『結界』だろうが、大体の魔術は使えるわよねえ。でも、あなたはそのことを、ブエルに言わなかった、なぜなら」

 そう、部長は言葉を切る。

「あなたは、ブエルさんを見て、一目惚れして1年生になることにしたからよお。おそらく、ブエルさんとは、学校説明会か何かで会ったのねえ?そして、彼女の、暴力的でヒステリー気質を見抜いて、タイプう!って思ってしまったのよお」


「暴力的でヒステリーが、コキアの好みだって言うんですか?」

 私が口を挟むと、先輩は肯定する。

「そうよ。そして、暴力と、見下しと、無視。これこそが、コキアの感じる『愛情』そのものなのよお」


 つまり――と、部長は、続けた。

「あなたの、ブエルさん殺害事件の動機は、ブエルさんを愛しているからなのねえ!」

 コキアは、答えない。ぴくりとも、動かない。


「あなたは、ブエルさんを愛していたあ。だから、ブエルさんにどんなに辛く当たられても、それを愛情だと感じることができたあ。なぜなら、あなたは、あなたのお父様とお母様に、同じ事をされていたからあ」

 そう、部長は言って、またローファーの先を変える。

「そして、お父様とお母様は、自分たちのしていることを正当化するために、あなたが幼い頃から、刷り込んだのよお。『殴るのも、蹴るのも、お前を愛しているからだ』『無視をするのも、あなたを愛しているからなのよ』と。そして、あなたは思ってしまった。いや、思い込んだのねえ。『殴ったり蹴られたりすることは、私は愛されているんだ。無視されるのも、愛しているからこそなんだ。私は父親と母親に愛されている!』と」


 コキアは、動かない。

「あなたが虐待を受けていた証拠もあるのよお?知り合いの刑事に頼んで、サイコメトリーで読んで貰ったのよお。その刑事、敏腕でねえ。24時間以内だけじゃなくて、1週間も前の、『物体の記憶』を読めるのよお。そのとき、あなたは明らかに、虐待を受けながら、嬉しそうに笑っていたわあ。それは、あなたが虐待を『愛情』だと思い込んでいるからなのねえ」


「待ってください。それなら、逆の方がつじつまが合いませんか?ブエルにヒステリーを起こされた場合に『愛情だ』と感じるんでしょう?なら、ブエルがコキアに暴力をふるっていて、うっかり殺してしまった、というならわかりますが……。それとも、コキアは、実は心の底でブエルを憎んでいて、殺したんですか?」

 私がそう聞くと、部長は「んん」と腕を組んだ。私たちの周りを歩くことは、もう止めていた。


「愛しているからよ。――あのねえ、ロロ。愛している人に愛情を返されたら、次にどう思うかしら?こう思うんじゃない?『愛情は愛情で返そう』と」


 私は――ようやくわかった。コキアは、本当にブエルを愛していたのだ。そして、その愛は、一般的に見ると、酷く歪んだものだったのだ。

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