犯人当てゲームではありません
「……部長、何考えてます?」
あの後、「じゃあな。もう俺を頼るなよ。ぜっ・た・い・に・だ」と、マシタ警部から念を押されて、私たちは学園に帰り、部室へと戻った。
しかし、頼るなといわれて、果たして部長がその約束を実行できるかは怪しいものだと思う。
「……もしかして、コキアを疑ってるんですか?でも、あの子は虫も殺せない子ですよ?」
そう、私が言うと、部長はにやりと笑う。
「虫は殺せなくても、人は殺せるわあ」
「言葉の裏を読んでくださいよ。虫が殺せないからって人が殺せるわけないっていう意味です」
「わかってる。うん。でも、まだ動機がよくわからないのよねえ……」
部長はそう言うと、両手を組んで、例の社長の椅子に前のめりに座った。
「……ロロさんのお友達が、一番怪しいのね?」
セロン先輩も、新聞を刷る作業の手を一旦止めて、そう聞いてくる。
「まあ、今はそう言うしかないかなあ。あ、そうだ。ちょっとマシタに聞きたいことがあったんだったわ」
そう言うと、部長は、自分の学生用鞄からケータイ端末を取り出して、指先軽やかにタップする。
……「俺を頼るな」って言われてから、一時間もしてないのに、もう頼ってる……。もしかしたら、この部長のフリーダムさ加減は、3年の付き合いのある警部もわかっていて、一応釘を刺しとけ、ということなのかもしれない。
部長は、マシタ警部と、なにやら話し始めた。
「もしもしい?そういえば聞きたいことがあったのよお!あなた、サイコメトリー能力持ちでしょ?」
サイコメトリー。それは、物体に触ると、その物体が24時間以内に「見ていた」記憶を呼び起こすことができる特殊能力のことだ。記憶自体は、ビデオのように長時間流れることもあれば、パッパッと断続的なものしか見えない人もいる。これも、人によって見え方もちがうとのことだ。
「あの家で、メトったのね?どう?何かわかった?」
……サイコメトリー能力を、「メトった」と表現する人、初めて見た。
しかし、部長は、私のそんな内心も知らず、「うん、うん」と聞いている。
そして。
「そうなのね?あの母親も……」
と、珍しく声を潜める。
やがて、部長は、「もうわかったから、切るわねえ!」と、全く相手の都合も考えずに電話を切った。
「……何かわかったの?」
と、セロン先輩が部長に向かって聞く。私も、興味があったので、聞く側に回ることにした。
「んー。あのねえ。やっぱり事件には、あの母親も、父親も関係しているのよお」
と、部長は軽く伸びをしながら言う。
「父親と母親が関係してるって……それじゃあ、一家で殺害を企んだってことですか?」
私がそう、我慢できずに言うと、部長は、
「そう飛躍させないでよお。でもま、確かにそう思うのが自然かもねえ」
と言って、ふふっと鼻先だけで笑ってみせる。
「母親や父親が関係しているのは、間接的にだけ。でも、これがなかなか根深いみたいよお?元々は、母親と父親の関係と、両親とコキアとの関係が、複雑に織りなしているのよねえ」
「……じゃあ、犯人は、コキアで間違いないんですね……」
私は、少なかれショックを受けた。クラスメイトとクラスメイトが、殺されて、殺した関係にあった。その事実が、ずっしりと腹に石を抱いたように体が重くなる。
「んー。まあ、犯人当ては別にどうでも良いのよお。でも、コキアにとっては、動機の方が重要だと思うわあ!」
セロン先輩は、床を蹴って、椅子ごとくるくる回る。
「動機を煮詰めていけば、多分あの子は自分で警察に出頭するう。そんな気がするのよ!」
その日は、セロン先輩に送られて、学生寮へと戻った。
「犯人当てより、動機が大事って、どういうことなんですかね」
私がそう聞くと、セロン先輩は、
「そうね……多分、コキアさんにとって、自分が犯人だ!って言われるより、『あなたはこれがこうなって人を殺したのね』って言われる方が重要なんだと思うわ。おそらくだけど……コキアさん自身も、苦しくて苦しくて、助けて欲しくて、わかって欲しくて犯行を行ったんだと思うわ……」
セロン先輩はそう告げる。私は、意外に思った。セロン先輩は、正義は正義だと貫く人かと思ったのに、犯人の心に寄り添う人でもあるんだな、と。
そして、私たちが、ブエルが殺されていた中庭に着くと、そこには人影があった。
「……コキア……」
コキアは、ブエルの死体があった場所を見つめながら、うつむいていた。私たちは、とっさに身構える。
……しかし。
「……ふ、うう……うううう……」
コキアは、嗚咽を漏らしながら、泣いていた。しかし、私たちの姿を認めると、バタバタと自分の部屋に駆け込んでしまった。
「……本当に、コキアが犯人なんですかね?普通、友達を殺したとしたら、葬儀などでは誤魔化すために泣くかもしれませんが、こんな人目のつかない場所で、一人で泣いてるなんて……。まるで、本当の友達みたいじゃないですか」
私がそう聞くと、セロン先輩は、少し考えて、言う。
「……もしかしたら、さっきの涙こそが、コキアさんの動機に繋がるのかもしれないわ……」




