コキアの母
「違法ではないけど、一応俺は警察官だからな。二人乗りを推奨するわけにはいかない」
と、マシタ警部が言うので、私はマシタ警部の車に同乗させてもらうことにした。
「マシタさん、ウィバー部長とは、付き合い長いんですか?」
私が聞くと、先行く部長のハヤブサを追っていた警部は、はあっとため息をつく。
「それ聞かれると、俺とあいつがお友達同士みたいに見られるからやめてくれないか?」
「……すみません」
なんとなく、謝ってしまった。しかし、華の女子学生と、30代のおじさんが友達に思われるのを嫌がるって、相当なことを、部長はやらかしているようだと思った。
「まあ、あいつが学園1年生の頃に知り合ったんだよ。警視庁長官の孫で、警視長の娘、ってことで、最初は丁寧に接したつもりだったんだがな。思えば、最初からあんな感じだった時点で、縁を切るべきだった……」
警部は、そう言って、苦々しい顔をする。なるほど、腐れ縁ってやつなのか、と私は推測する。
「君も……ロロさんも、よく考えた方がいいよ。友達は選ぶべきだってね」
私に向かって、警部がそう言うので、私は「はあ」と一応返事をしておいた。
でも、部長は確かにああいう奇天烈な性格だけど、悪気は感じないんだよなあ、とは思う。芯は通っているというか、その通っている芯が太すぎて、一般の人には理解できない、という感じだ。
「……っと。ここが目的地か」
そう、警部が言うので、前を見ると、ちょうど部長がバイクを止めて降りるところだった。
「ここはどこなんでしょうね?」
「ああ、なるほど。コキアさんの実家だ」
と、警部は答える。さすが警察、ブエルの親友だったコキアの実家すら調べているらしい。
「さあ、このために呼んだんだからねっ!マシタ、あくまで『ちょっとお話を聞きに来た』体で頼むわよお!」
そう、顎で警察を使っている感じの部長だが、警部は「相変わらず態度でかいな……」と不服を漏らしながらも、インターフォンを押す。
やがて、中年女性らしき「はい?どちら様ですか?」という声が聞こえた。
「突然すみません。私、こういう者です」
と、警部は今時アナログな警察手帳をカメラ部分に提示する。すると、向こう側は「警察……!?」と驚いたようだ。
「少しだけ、お話をお聞きしてもよろしいでしょうか?お嬢さんの学園で、殺人事件が起きまして、その調査のために、一軒一軒回っているところです」
マシタ警部の言葉に、私は舌を巻いた。なるほど、「他の生徒の家族にも話を聞いている」と言えば、相手は警戒を緩めるのだ。
やがて、インターフォンが切れ、玄関からやはり中年女性が姿を現した。そのまま、黒い柵でできた門を開ける。
「お待たせしました。どうぞ中に」
そう言われ、私たちはぞろぞろと門をくぐり、室内へと入る。
「お話というのは……?まさか、うちの娘が事件に関わっているということはありませんよね!?」
コキアの母親は、そう言って、恐ろしいとばかりに自分の体に両手を回す。警部が何か言う前に、部長が口を開いた。
「ええ。ご心配なく。あくまで、私たちは他のご家族と同じように、お話を聞きに来ているだけです」
!?
部長、外面を使い分けるほどの賢さがあったのね……!?
私の部長への評価は、かなり下の方にあったせいか、まともに敬語を使っているだけで、「やだこの子賢い!」と思ってしまう、「不良が捨て犬を拾うと良い人に見える法則」を体現することができた。
「ところで、コキアさんは、学園外ではどう過ごされていますか?毎週、休みには帰省しているとのことですが」
部長がそう切り出すと、コキアの母は、
「おそらく、普通のご家族とさほど変わりません。近況を聞いて、家族で食事を摂って……父親は昼間はいないのですが、あの子は本当に家族に逆らうこともなく、とても良い子ですので……」
と、ごく当たり前のことを言う。そりゃあそうだ。誰だって、「うちの子は悪い子です」とは早々言わないだろう。
「逆らうこともないと?」
部長が、そこを繰り返す。コキアの母は、
「ええ。今まで家族に逆らったことはありません。……でも」
と、そこで一度、話を切る。
「……あの子が、再度学園に入り直したときは、少しだけ、父親とも揉めましたが、私は『勉強熱心だ』と、応援したんです」
と言った。
「学園に再入学した……?1年生からですか?」
慌てて、警部が手帳を開く。コキアの母は、
「ええ。特に成績が悪かったわけではないのですが、あの子があそこまで強く主張したのは初めてで。それに、最近では『友達が沢山できた』ととても喜んでいたので、私たちもそれで良かったとほっとしています」
と答えた。
「へえ……。ところで、あの祭壇は、何です?すみません、あまりにも美しい祭壇でしたので、目に入ってしまって……」
と、部長が口を挟んだ。よく言う。宗教なんかに興味なさそうなくせに。
「あれは、うちで祀っている神様の祭壇です。主人の父親が熱心に拝んでいた神様ですので、私たちもとってもお世話になっているんですよ?そうだ、パンフレットをお持ちしますね!」
コキアの母は、急にぱっと顔を明るくして、いそいそとその宗教のパンフレットを3部、持ってきた。
「……『生まれ変わったあなたに、ハッピーバースデー』」
そう、私がパンフレットを見て文字を口にすると、部長はにやにや笑っている。逆に、警部は難しい顔をして、パンフレットを眺めていた。




