警察署に行こう
あの後、ウィバー部長と私は、学校の駐輪場に向かって歩いていた。
駐輪場は、主に街に出かける際に使う場所であり、ほとんどの生徒は自転車を使っている。街に出るのは休日だけなのだが、魔力を照合することで、鍵を外せるようになっているのだ。
「これが、私のハイスペックバイクよお!」
部長が示したのは、白と青のラインが入った、いわゆる「仮面ライダー」が乗っているような、大型の本物のバイクだった。かっこいいというか、中二くさい。
「どう?かっこいいでしょ?素敵でしょ?讃え崇め祀っても良いのよお?うん?」
部長はそう言うが、私は、「個性的なフォルムですね」としか言えなかった。
「ハヤブサっていうんだけどねえ。さすが極東製よねえ!ちょっとだけ乱暴に扱っても全然壊れないのよお!」
極東製で、こんなのあるんだ。私は、バイクといえばハーレーとかカブ以外に思いつかなかったので、こういう本格的なバイクを見るのは初めてだった。
「はい、ヘルメット」
と、ちゃんとヘルメットも用意されている。私は、疑問に思った。
「ヘルメット2個ちゃんとあるんですね。それに、シートもタンデム仕様じゃないですか……誰か、よく乗っけるんですか?」
と聞くと、部長は、
「そうねえ!セロンはよく乗せるわねえ!」
と、意外な発言をした。
あんなに、歯に衣着せずに喋ることができるというのも、もしかして部長とセロン先輩なりの友情なのかな、とも思った。
「ちゃんと掴まってってねえ!いくわよお!」
ブボボボボボボ!!
ものすごいエンジン音が鳴って、バイクが起動した。私は、部長の痩せた厚みのない胴体にしっかりしがみつく。
「これからあこおいのkっだるうなおおい」
「え?なんて?」
「こちろあにあにんdんjぢおっぽそういうばういあういいj」
ブルルルン!!ボボボボボボ!!
エンジン音が酷くて全く聞き取れない。多分、これからどこに行くのか説明しているのだと思ったが、私は、まともに聞き取るのを諦めて、部長の胴体をしっかり抱きしめた。
――バイクは、それこそ疾風のように走って、警察署の前で停まった。
「こ、こわああああああ……」
私は、ふらふらしながらバイクを降りる。部長は結構な走り屋らしく、ものすごいスピードを出すので、怖くて怖くてたまらなかったのだった。
「ま、乗り慣れてない人はそうかもねえ。そのうち慣れるわよお。セロンも最初はそうだったし」
部長も、ヘルメットを外しながら言う。しかし、考えてみれば、私たちは制服姿でバイクに乗ってしまったわけだし、部長はスカートの丈も短めなので、下手すれば丸見えだったのでは?と今気付いた。
「え?また、警察署ですか?」
そう、私が聞くと、部長は、魔力鍵をバイクに取り付けながら、
「そうよお?さっき言ったじゃない」
と、答えた。聞こえなかったんだけど。
「さ、入りましょ」
と、部長は、勝手に職員用の裏口から入ってしまう。
……警察エリート一家のお嬢様なはずなのに、部長はこそ泥感しか出していない。おかしいな?私の目が悪いのかな?
中に入ると、指紋チェックとIDチェックのメカニックが頭上に現れた。
しかし、部長は、「ご用の方」のボタンを押し、「ウィバーですけどお、父の用命でマシタ警部に面会に参りましたあ!あ、あと、同行者一名連れてきましたあ!」といけしゃあしゃあと言ってみせる。
やがて、メカニックが解除され、私たちは警察署内に楽々と入ることができた。
「……普通の人でも、ああ言えば入れるんですか?警備ガバガバじゃないですか?」
と、私がじろりと部長を見ると、
「そんなわけないじゃなーい!私の名前で、私の魔力反応とかを調べてるのよお!」
と、カラカラと笑ってみせる。
やがて、私たちは白い廊下を通り抜け、「NW学園女子学生殺害事件対策本部」と書いてある一室にたどり着く。
「こんちわー!マシタ警部いますかあー!?」
部長は、ものすごい場違い感を払拭して、だいぶフランクにそう、室内に声をかけた。
室内は、情報端末が何台も並び、ケーブルが何本も床に張られている。紙書類が何枚も重ねられ、デスクの横に積まれていた。そこで、男女種族多彩な人間たちが働いているのだったが、部長の姿を一目見ると、「またか」という顔でさっさと作業に戻った。
「マシタ警部ー!?マーシーターさあん?」
部長は、そう叫びながら、室内をどんどん歩いていった。
私も、慌てて「失礼します」と声をかけて一礼してから対策本部内に足を踏み入れる。
「一回呼べばわかる。何しに来たんだ、お前は」
そう、部長の前に立ちはだかったのは、身長170cmくらいの、黒髪をワックスでまとめた男性。目つきは鋭いが、どこか顔全体に幼さが残っている。年齢は、30代くらいだろうか?
「おうマシタ!久しぶりい!」
「昨日会ったばかりだ、バカ」
部長が気安く声をかけると、マシタ警部はぱかんと部長の頭を叩いた。
「進捗はどうだねえ?マシタ君」
「お前が言うな。……で、何か美味しい話でも持ってきたのか?」
マシタ警部がそう聞くと、部長はにやりと口元をゆがめる。
「そう。犯人逮捕に非常に有益な情報だよ。ただし、マシタくんが一緒に来てくれないと、全部おじゃんになっちゃうけどねえ」




