死亡者:ブエル
「通り魔」と聞いて、顔を輝かせたウィバー部長と共に、私たちは事件現場へと急いだ。
メンバーは、キジャモ・シャンテ・部長・私である。
現場は、寮の中庭。ちょうど、1・2・3年生寮と4・5・6年生寮をまたぐ場所であった。
警察が来ているのか、「立ち入り禁止」のロープが張ってある。
「むむむ……このロープ、邪魔ねえ」
そう言ってウィバー部長が腰に差した短剣でロープを切ろうとするので、私は慌てて止める。警察の捜査を邪魔するとか、マジでマスゴミの才能あるわ、この人。
「野次馬も多いねえ……」
シャンテが呟く。全くその通りで、多くの寮生が外に出て、警察の捜査を見守っている。
既にブエルは病院に運ばれた後らしい。が、そこで、一人の男性警官がやってきて、刑事らしき人物に耳打ちした。
「へー。ブエルはもう手遅れだってえ」
そう、ウィバー部長が解説する。私たちは、驚いて「なんでわかったんですか!?」と聞いた。
「ふっふん。私の耳を侮ってはいけないよ、お嬢さん方」
ウィバー部長がそう言うのと、部長の頭上に、大きな犬か猫の耳がぴん、と立つのは同時だった。この人、獣人だったのか……!
「でも、キジャモのときは、エレン先生が蘇生してくれたのに、手遅れなんて……」
と、私が言うと、
「おや?ロロたちはまだ習ってない?あれ?蘇生魔術って3年で学ぶんだっけえ?まあいいや」
と、ウィバー先輩は解説してみせる。
「蘇生魔術といっても、100%戻ってくるわけじゃないんだあ。大事なのは、『魂が肉体から離れていないうちに蘇生を行う』ってことだねえ。つまり、蘇生される本人が諦めたらそこで終了ってことお。ブエルさんは、どうやら魂が離れてしまったようだねえ」
私たちは、もう一度、現場を見やる。すると、寮長である、5年生の女性がやってきて、「はいはい、皆、部屋に戻って。今日は鍵をしっかりかけて、どこにも出歩かないこと!明日は必ず複数人で行動して、1年生はできれば上級生と一緒に登下校すること!」と、野次馬の少女たちに割って入り、的確に指示をした。
「じゃあ、ロロたち、明日は私かセロンが迎えに来るわあ。私は報道部に戻って緊急ミーティングするからあ!」
と、ウィバー部長はやけにあっさりと去って行く。あの人のことだから、スタンドプレイに出ることも予測していたのだが、どうやらその心配はないようだ。
「……ブエルちゃん……」
と、部屋に戻ると、キジャモがぼろぼろと涙を落とした。
「キジャモ……大丈夫だよ。警察も来たし、きっとすぐ解決するから。ブエルのことは残念だったけど……」
「ロロちゃんにはわかんないよ!!」
キジャモが、泣きながら、言う。
「私は、ブエルちゃんと友達だったんだよ!?友達だった子がいなくなるって、どういうことかわかるの!?ロロちゃんはいつも冷静だけど、ちょっと冷たすぎるよ……!!」
私は、弾丸で心臓を撃ち抜かれた気分だった。
そうだ。キジャモは、元々ブエルのグループにいたのだ。シャンテだってそうだ。
グループを抜けたとはいえ、やはり情はそう簡単に切ることはできないらしい。
「…………ごめんね、キジャモ。私、今日はもう何も言わないから」
私はそう言って、布団にくるまって、キジャモに背を向けた。
キジャモは、すすり泣いているようだが、それをこれ以上見たくなかったのもある。友達が悲しんでいる姿を見るのは、私も悲しい。
やがて、ミーティングをしていたらしい6年生の生徒が、夕食のプレートを届けに来た。本気で今日は、生徒を外出させないらしい。
私たちは、無言のままで、食事をした。食事は、砂を噛んでいるように、味がしなかった。
――翌日。
「ロロちゃん、おはよ」
あれだけ泣いていたキジャモが、目を腫らしながらだが、にこりと笑って挨拶をしてくる。
正直、このまま友達関係も解散の危機にあったのだが、一晩泣いて、キジャモも落ち着きを取り戻したようだった。
私たちは支度を済ませて、インターフォンが鳴るのを待っていた。
「ロロちゃん」
キジャモが、靴下を履きながら、言う。
「ごめんね。私、ちょっと変だったよ。八つ当たりして、ごめんね」
「しょうがないよ。近しい人が亡くなったんだから。私こそごめん、無神経な発言だった」
私も、キジャモに謝る。そして、二人で目線を合わせると、照れたように笑ってしまった。
「3ヶ月も同じ部屋にいたのに、ケンカしたのこれが初めてだね」
「そうだね」
「ケンカは、しない方が良いよね。うん、絶対に良い」
と、キジャモは何かを確認しているようだった。
やがて、インターフォンが鳴って、一応ドアスコープで確認すると、セロン先輩が立っていた。
なので、ドアを開ける。
「もう支度できてる?学校に行きましょ」
セロン先輩はそう言って微笑んだ。しかし、私には気になる事が一つあった。
「あの……ウィバー部長は……?」
「ウィバーは朝早くから出かけたわ。多分、『単独取材いいい!』とか言ってたみたいだから、取材に行ったみたいね」
……あの猪突猛進バカ部長!!私は、呆れるのと同時に、「それだけ情熱を燃やすのもすごいな」と感心したりもしたのだった。




