表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女ロロの事件記録手帳  作者: 烏丸牙鳥
はじまりの物語
2/42

精神病ですか?

「統合失調症って、いうのかしら」


 目の前には、白衣。そして、青い肌に、筋肉のついた足。

 私は、相手の足下を見ながら、「はあ」と返事をした。


「でも、それは、何百年も前に大都市の僧侶博士ハイプリーストが治癒呪式を発明して、なくなった病気ですよね?」

 私は言う。ついでに、視線を上に向けると、そこには、白衣をまとった巨大なオーク族のゴリラ……いや、校医がいた。普通、オークの女性は体が大きいだけで、かなり豊満な胸と尻を持った、顔は美人系が多いのだが、この校医は思いっきりゴリラ。オークの男性が、派手な化粧をほどこした顔をしている。


「それしか症状が一致しないのよ。でもね、統合失調症は治る病気だけれど、原因を突き止めない限り、再発する可能性もあるのよ。それに、昔の病気だからこそ、資料が少ないというのもあるわ」


 ちなみに、この学園では、教師ですら若い男性は女子寮に入れないことになっている。つまり、女子寮と男子寮、二箇所にそれぞれ校医がついているのだ。

 なのに、この校医が男性なのは、「特別措置」であるからだ。普通、オークはその恵まれた体型から、戦士学科を選択することが多い。それが、僧侶プリーストであり、校医の資格を持っていることがまず学園初の第一の措置。そして、「体は男、心は乙女」ということが第二の措置である。


『おいおいおい。俺がおつむの病気だってのか!?じょーだんきついぜ先生よ~!』

 頭の中のあいつが不満をあらわにする。

「ちなみに、今は、病気扱いされて怒っています」

 と、私が言うと、

「相変わらず面白い精神構造してるわね、あなた」

 と、今まで誰にも言われなかったようなことをさらっと言われる。


「原因って、何でしょうか?」

 私が聞くと、校医はやけにタイトなミニスカートをはいた足を組み直す。

「原因は、ストレスとか、あとは遺伝って話もあるわね。何か心当たりはない?

 そう言われ、私は、

「心当たりといえば、この学園に転校してきたぐらいしかないです。けれど、別にそれがストレスってことはないと思いますし……」

 と、答える。


「でもあなた、前の学校は辞めたのよね?何かあったのかしら?」

 私は……黙った。自分の心をつまびらかにされるのは好きじゃない。この学校は良いところだけど、前の学校は、いわゆる「平民スクール」と呼ばれている、ただの学校だった。それこそ、何百年も前の、「学校教育」が行われているだけの学校だった。

 故に、多少は魔術や強化魔法の覚えがあった私にとっては、苦痛でしかない空間だった。


「あっ……ごめんね、変なこと聞いちゃったかしら?別に、辛いなら言わなくて良いのよ」

 本当に、優しくて良い先生なのに、唇の厚さが「そんなにはないだろ~!ってホンマや!」というぐらいに口紅を大胆に塗った顔と、つぶらな瞳をアイラインで全体を囲っているのが、この校医に診察を受け始めて3ヶ月くらい経つけど、慣れない。


「先生は……なんで、女子寮にいるんですか?」

 と、私は話を逸らす。と、先生は急に腕を組んでプンプンし始めた。

「それがねっ!あたしは男子寮がよかったのよ!だって、男子寮って可愛い男の子がいっぱいいるじゃない。逆ハーレムじゃない。なのに、校長のバカが『エレン先生は女子の心がよくわかるから、女子寮で』って言ったのよ!あたしは男子寮がよかったわ~」

 ということらしかった。オカマも大変だ。


「ってゆーか、今、あなたオカマって思ったでしょ!?言っておくけど、それ差別だからね!あたしはオカマじゃなくて、ドラァグクイーンっていうの。さらに、女装癖じゃなくて、心が女性なのよ!そこのところ、ちゃんと区別してよね!」

 と、またもや機嫌を損ねてしまった。……読心術テレパスが使えるのなら、別に私は話さなくても良いように思うけど、「男子寮に行けないのなら、せめて女の子と女子トークしたいのよ!」というエレン先生の強い希望で、女子寮では、口述による問診が行われている。


「あ、いかんいかん。で、統合失調症なんだけど、あたしが診る限りでは、その傾向は高いように思うわ。今度、呪式で治癒しようと思うけど、どうかしら?一ヶ月後っていうのは?」

 そう言われ、特になにも予定のない私は、「お願いします」というしかなかった。


 

「私、病気だって」

 そう、呟いて、廊下を歩く。エレン先生との診察は学科が終わった後なので、放課後に行われている。

『病気!?ははっあ~!この時代に精神の病気とか、マジレアじゃん!!うける~~~!』

(あんた、先生の呪式でこっぱみじんにされるから覚えときな)

 そう、口にはせずに、頭の中で説明する。

『いや、俺、病気じゃないから平気だよ?ぜんっぜん平気だよ!HP1も減らないよ!』

(だから、レアだろうがなんだろうが、もう治る病気なんだから、あんたも風前の灯ってことよ)

 私はそう語りかけ、後は何も言われないようにシャットアウトした。


「あ……でも、3日後に強化魔法のテストあるんだっけ……どうしようかな。エレン先生、忙しそうだし、せかすのも……。この頭の中のがいなくなってくれてからテスト受けたかったんだけどな……」


 私は、少し不安になっていたが、今はテストのことで頭をいっぱいにすることにした。


――でも、それが、自分が思っているより大変なことになるなんて、私は知りもしなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ