いざ、報道部入部!
――「さあ、洗いざらい白状してもらいますよお」
そう、目の前の赤毛の女の子は言った。姿形は少女なのに、私は、心の底からぞっとした。
そして、今にも蛇に飛びかかられるカエルのように、指先一本すら動くことができない。
「ちょっとウィバー、だめですよ、そんな脅すようなこと言ったら」
そこで、桃色の髪の子が、口を挟む。天使!助かった!と、私は思った。
「脅してなんかないわあ!あ~!セロンの良い子ぶりっこがまた出たあ!」
と、ウィバー先輩は言う。この桃色の髪の少女は、セロンという名前らしい。
「そういうのじゃなくて……一応、報道部の部長で、上級生なんだから、それなりの行動を模範として示さないと……」
「あー、はいはい。わかりましたよお。マナツ先輩の作った新聞部が云々って言いたいんでしょお?セロン、マナツ先輩のことめちゃくちゃ好きだもんねえ」
「わ、私は……!」
そこで、セロン先輩が顔を赤らめる。……なんか、ちょっとむっとしてしまった。一応、助けてくれるみたいだけど、私は意外と嫉妬深いらしい。マナツさんと何かあったのか!?と問いただしたくなる。
「はいはいはいはい、わかりました。じゃあ、結論から先に言うわねえ。ロロさん、あなた、報道部に興味ない?」
「は?」
私は、間抜けな声をあげてしまった。今さっきの監視カメラハッキング写真を使えば、いくらでも新聞のネタにはなるだろう。それを、みすみす逃すというのか?
「例の鎧、報道部にとっては、すっごく必要なのよお。なにせ、ロロさんは、その鎧を着ると、無敵状態になるんでしょお?報道には、すっごくすっごく向いてると思わない?」
……私は、考える。こういう場合、どうしたら良いのだろう。どう行動すれば、正解に近いのだろう。
「事件現場に潜り込んで、新鮮なネタの記事を書く!これで、ロロさんは大活躍できると思うんだけどお?どう?」
そして、ウィバー先輩は、ゆっくりと、噛んで含めるように言葉を紡ぐ。
「うちの、報道部の、部員にならない?」
そして、例のハッキング写真をぴらぴらと指先でつまんで振ってみせる。
「報道部の部員になれば、この写真のことは水に流す。私たちは、何も知らなかったことにするう。それに、マナツ先輩の立ち上げた報道部に入るっていうのも、なかなか悪くないと思うけどお?」
……この追い詰め方、ヤクザの手口じゃないですか。
「ご、ごめんね、ロロさん。もし、嫌なら嫌って言っても、私が責任持って写真と元画像は処分するから、大丈夫よ?」
セロン先輩が、そうフォローする。と、ウィバー先輩は、むっとした顔で言った。
「何言ってるのよお!こんな千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかないでしょお!」
「でも、こんなやり方、間違ってるわ」
「セロン、あなた副部長でしょお!?新入生の勧誘も立派な仕事だと思うんだけどお!ただでさえうちは人数少なくてカツカツだっていうのにい!」
「それは、ウィバーの人望がなかったからでしょ」
「……!!……!!」
ウィバー先輩は、セロン先輩に痛いところを突かれたのか、言葉にならない声を出した。
しかし、私の答えは、もう決まっていた。
「……私、入ります」
「お?」
「え?」
ウィバー先輩と、セロン先輩の声が重複する。私は、一度深呼吸をして、肺一杯に空気を送り込むと、もう一度言った。
「私、報道部に、入部します」
「やったあああああああああああ!!」
ウィバー先輩は、ガタンと椅子を蹴り飛ばして立ち上がると、両腕を大きく天井へと突きだした。
セロン先輩は、「え?え?」と、オロオロしている。
「大丈夫?良いのよ、先輩の命令だからって聞かなくても」
セロン先輩が、私に駆け寄って、腕を回してさすってくる。なんだか、子供をあやす母親のようだ。
「いやいやいや。言質取ったし、これで部員一人獲得ね!しかも、無敵状態付き!これは、報道部の歴史を揺るがすわよお……!」
ウィバー先輩は、上機嫌だ。私は、正直に言うと……嬉しかったのだ。こんなに、人に必要だと言って貰えて、嬉しかった。だから、入部しようと決めたのだった。
「これから、よろしくお願いします」
そう、先輩たちに頭を下げる。すると。
「ロロ!入部おめでとう!」
と、元気な声が斜め後ろから聞こえた。そちらに目を向けると、瓶底眼鏡に三つ編みのおさげという、いかにも「勉強できます」という風貌の女子が、いた。デスクに突っ伏していたうちのもう一人らしい。
「よかったね、ウィバー。これで我々の後輩ができたってことね!」
ぱちぱちと拍手をしながら、その人はそう言う。それにつられて、横のオーク族の少年も、ぱちぱちと拍手をしてみせる。
「あらー……そんなに簡単に決めちゃって。でも、後輩が増えるのは嬉しいわ。ロロさん、よろしくね」
と、セロン先輩が、今度はにこにこと笑って私を見つめる。……距離が近い。ちょっと照れる。
「ふっふっふ、『人望がない』とか『暴走列車』とか『やり口がヤクザ』とか、これまで散々な言い方をされてきたけど、ついに新入生獲得してみせたわあ!」
ウィバー先輩が、そう、得意げに言う。……あんた、自覚あったのか。出会ってから1日足らずだけど、私は、なんとなく、ウィバー先輩のキャラクターは読めた気がしていた。




