女の子同士じゃだめかしら?
温泉では、色々と刺激的だった。
「ほら、ロロ。私が洗ってあげるわ」
と言われ、背中を出したのが間違いで、マナツさんは、自分の体を私の背中にぴったりくっつけると、そのまま私の前面を手で洗い始める。
「ちょっ、マナツさん――」
私が抗議しようとすると、マナツさんは「平気よ。ほら。皆やってるでしょ?」と、洗い場を示した。
まあ、それはその通り。ここはレズビアンばかりなのだから、皆、開放的に楽しんでいる。
え!?私も楽しまなきゃだめなの!?と、同調圧力に負け、私は、マナツさんに体を委ねた。
……正直、こういうのも悪くないな、とちらりと思ったのだが。
温泉から上がると、私たちは、また手を繋いで外に出た。
ちなみに、料金は、「ここは私が」とマナツさんが出そうとするので、「いえ、せめてワリカンにしましょうよ」「ロロは私に払って貰いたくないの?」「マナツさん、その言い方卑怯です」「わーん、ロロがおごられたくないっていう~!(チラッチラッ」「めちゃくちゃ指の間から見てるじゃないですか」……といういきさつがあり、最終的に私は3割を払うことにした。納得してないけど。
「どうする?ご飯食べようか?」
と、マナツさんがこちらに振り返った瞬間――
「おーっと、お姉ちゃんたち、ちょっと待ってね~」
と、茶髪にピアス、坊主にヒゲ、といった、いかにも……な2人組の男たちが私たちの行く手を塞いだ。
「どこ行くの?俺らがご飯でもおごってあげようか?2人とも可愛いね~」
そんな言葉を投げかけてくる。
マナツさんはすっと表情を消して、
「結構です。どいてください」
と、カツン、と靴を一歩先に出す。
そういえば、マナツさんは今日はいつものローファーではなく、金色のサンダル姿だ。
「そう言わないでさ。俺たちの兄貴分に紹介したいんだよ~。兄貴、君たちみたいな可愛い子好きだからさ。ね~?美味しい中華、食べたくな……ぎゃあああああ!!」
男が悲鳴を上げたのは、マナツさんがキレたからではない。黒い疾風のような風が通り過ぎて、私たちに話しかけていた男に跳び蹴りを食らわしたのだ。
「カズ!!てめえ!!まだわかってねえのか!!」
そんなことを言いつつ、茶髪の方をぼこぼこに殴る。茶髪は、「兄貴、すいません!すいません!」としきりに謝っている。
「おら、立て!」
制裁が終わったのか、黒ずくめのスーツを着た男が、茶髪の胸ぐらをつかんで立たせる。茶髪は、顔こそ殴られなかったものの、全身が痛そうだ。
「お嬢さんたち、怖かったろ?ごめんな?」
と、「兄貴」が言う。びしっとしたリーゼントをポマードで固めた、いかにもヤクザってヤクザだ。
そして、「てめーも黙って見てるんじゃねーよ」と、スキンヘッドの方もぱかんとどつく。
「カズ!こういうお嬢さんたちにはなあ!俺は挟まれたいんじゃねーんだよ!可愛い女の子同士を、チンポで征服したいっていうんじゃねーんだ!女の子同士の恋愛に男はいちゃいけねーんだ!こっちの清楚なお嬢さんは!?」「はい、可愛いです」「こっちのちょっとクール系のお嬢さんは!?」「可愛いです」「じゃあ、可愛い女の子と可愛い女の子に男が挟まったら!?」「嬉しいです」「だからそれがわかってねーんだよ!!」
説教をしている間にも、ぱかんぱかんと豪快に、「兄貴」は茶髪を叩きまくる。
「女の子同士の恋愛に男を混ぜんな!!俺らは秘密の花園の地面か空になりてーって、それだけなんだ!わかれよ!!」
……なんだか知らないけど、すごい情熱なのはわかった。
「あの。私たち、行って良いですか?」
冷静に、マナツさんが聞くと、兄貴は、
「あ、どうぞ。怖がらせてごめんな!」
と答えて、まだ舎弟に説教をしていた。
「マナツ、怖かったあ~ぶるぶる」
と、マナツさんが、どさくさに紛れて抱きつこうとしてくるので、
「ぜんっぜん震えてないじゃないですか」
と、私はマナツさんの体を押し返す。
「……というか、マナツさん、あの温泉とか……初めてじゃないんですね」
私は、ずっと引っかかっていたことをぶつけてみる。ハッキリ言う。これは、嫉妬だ。
「うん?ええとね。ロロの前に、何人いたかな……」
と、マナツさんは指を折り始めたので、私はぎょっとした。そんなにいるの!?
「まあ、そんなこといいじゃない」
そう、マナツさんは締めくくったが、私はじとっとした視線を送った。マナツさんのことを、深く知っている人が、それだけいるなんて。
「でも、私が一番、心から愛したのはロロよ?」
そう微笑まれて、私は、自分の嫉妬心を少し恥じた。照れ隠しに、言う。
「それ、他の子にも言ってないでしょうね?」
「……本当よ」
マナツさんが、少し寂しそうに言うので、私は、まあまあそこで許してあげることにした。
「ご飯を食べたら、少し買い物して、今日は泊まりましょうか」
そう言われ、私は「え!?外泊許可は……」と戸惑ったが、マナツさんは、スエードのバッグをぽんと叩いて、「抜かりはないわよ」と言ってみせた。
どう、寮長を言いくるめたのかはわからないが、私は、帰りを待っているかもしれないキジャモに、心の中で「ごめん」と謝っておいた。




