デートの約束
――テストが終わって、私たちはつかの間の自由を満喫していた。
ブエルも、あのユニコーンの一件から、すっかり大人しくなってしまった。そして、そんなブエルを、献身的に支えていたのが、意外にも一番馬鹿にされていたコキアだった。
まあ、他のグループの話は私にとってはどうでもいいことだ。私たち3人娘は、今日もぴーちくぱーちく話しながら、帰路についていた。
そんな折り、私たちの視界に、ある人が映った。
「あれ?マナツさんじゃね?」
シャンテが言うので、私は頑丈な寮の門に目をやる。
そこには、ストレートの黒髪の少女がたたずんでいた。端正な顔は、普段はぞっとするほど美しく、そして冷たい。まあ……私には違うけど!というのが、今現在の私の自慢の一つである。
ケータイを指先で操っていたマナツさんは、私たちの姿を見ると、にこりと微笑んだ。……このギャップがずるいよなあ、この人。
「テストお疲れ様、皆」
そう、マナツさんが、ケータイを通学用バッグにしまって、話しかけてくる。そして、「ロロさんにお話があるのだけど、大丈夫かしら?」と、ことりと首をかしげる。
「いや、もちろんいいっすよ!じゃあキジャモ、あたしたちは先に部屋に入ってよーぜ」
と、空気を読んだシャンテがキジャモの腕を引っ張っていく。
「あっ……ロロちゃん、ご飯までには帰ってね!」
そう言い残して、キジャモもシャンテと連れだって寮門をくぐっていく。
「あの、話って……?」
と、私がマナツさんに聞くと、マナツさんは「うふ」と笑った。なんだか上機嫌だ。
「今度の休暇、デートでもしましょう」
そう言われ、私は、思わず、
「で、デートですか!?」
と、うろたえてしまう。瞬時に頭の中で、今ある化粧品と、私服と、アクセサリー類を頭の中で組み立てる。マナツさんと並んでも、遜色ないものにしたいがためだったのだが、残念ながら「デート用」という服のカテゴリーが、私の中にはなかった。
それに、化粧品と言っても、持っているのは最低限の基礎化粧だったし、それではすっぴんである。私は大いに焦った。
マナツさんは、また機嫌良さそうに笑うと、「ロロはそのままで良いのよ。普通に、休日に着ている服装でも構わないわ」という。
ぐはっ……。私は、ダメージを受けた。休日の服装といえば、私はパジャマ姿でうろうろしているタイプの人間なので、さすがにパジャマでは出かけられない。
「……あまり、私にファッションセンスを求めないでください」
私がやっとの事で、その言葉を絞り出すと、マナツさんは笑いながら
「大丈夫。大丈夫よ。ロロは心配しなくて良いわ」
と、答えてみせた。
「じゃあ、今度の休日に。詳しいことはケータイで知らせるわ」
そう言われ、私は疑問を持つ。
「別に、デートの約束なら、ケータイでメッセージやら電話やら、することがあったのでは?」
と、聞くと、マナツさんは、
「ロロに会って、話したかったのよ」
と答えてみせる。いじらしい。
「……ところで、いつから私たちを待ってたんですかね?」
と、つかぬことを聞くと、マナツさんは「2時間前」と何事もなく答えてくれた。……は?
「2時間前って……私たちの授業、終わってないじゃないですか」
そう、おそるおそる訊ねると、マナツさんは、
「私が勝手に待ってるんだもの。それに、ロロはちゃんと寮に帰ってきてくれるって信じてるし」
と、特に何の恩着せがましさもなく、言ってのける。……本当に、この人は、すごい人だ。
「ロロも、試験終わったのだから、ちゃんと寝なさいね。じゃあ、これで」
と、マナツさんは、意外とあっさりと寮門をくぐって行ってしまった。
私はというと、「初めてのデートの約束」ということで、頭がふわふわするような、夢見心地の頭の中になっていた。
――寮に戻ると、ベッドで一人、雑誌を読んでいたキジャモが「お帰りー、ロロちゃん」と、こっちを見ないままで記事に熱中している。
「ごめんねキジャモ。今度の休暇、出かけてくるからさ。食事時に間に合わなかったら、先に食べてて」
私がそう声をかけると、キジャモは珍しく、「うう~ん」とうなり声をあげる。
「ロロちゃん、この間、街には通り魔が出てるって聞いたでしょ?」
私は、そういえばと思い出す。
『街で通り魔が多発してるってやってるじゃねーか』
と、これは、ブラック・ドッグに襲われる前に、シャンテが言った言葉だ。
「マナツさんと一緒に行くのなら大丈夫だとは思うけど……気をつけてよね-。怪我とかしないで帰ってきてよ?」
と、キジャモは、ベッドから起き上がって、週刊誌か何かの特集記事をこちらに開いて渡してくる。
「……通り魔ね……」
と、私は、記事に目を走らせた。そこには、こう書いてある。
――凶行。被害者は面識のない魔術・武術士6人と判明。警察も頭を悩ませる――
「本当に凶行ね、これ」
と、私がキジャモに雑誌を返すと、キジャモは、
「無差別だって言ってたけど、ここの街は魔術師か武術士の心得がある人しかいないからねー。でも、もう6人も殺されてるし、本当に気をつけてね!」
と、心配そうに言った。
「そうだね。気をつけるよ。ありがと、キジャモ」
と、私が返すと、キジャモは「えへへ」と照れてみせた。
そして、私は、マナツさんとの楽しみなデートが、なんだか暗礁に乗り出したような気分になったのも事実だった。




