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あマゾねすっ!  作者: 月見
9/17

第9話「この『あマゾねすっ!』という作品、今月頭で1周年だったのよ」


 いつも通りの日々。

 今日も今日とてわたしは放課後に生徒会室で読書を嗜んでいた。

 すると急に生徒会室の扉が勢いよく開かれた。

 何事かと思い視線を扉のほうへとむけると、そこには息切れをしながら立っている天音の姿があった。


「ぜぇぜぇ……せ、聖奈……うぇ……た、大変よ……おぇ……」


 もはや息切れを通り越して吐きそうになっている天音。


「いや、なんかあんたのほうが大変だと思うんだけど……一旦落ち着きなよ。っていうか次期生徒会候補なのに廊下走るような生徒の反面教師になっちゃダメでしょ」


 わたしは生徒会室に常備してある冷蔵庫の中からミネラルウォーターを取り出し、天音に渡しながらそう言う。

 ミネラルウォーターを受け取った天音は蓋を開けて半分くらい飲み、少し落ち着いたところで先ほどの慌てぶりについて聞く。


「で? なんでそんなに急いでたの?」


 天音は今日日直ということもあり、わたしが先に生徒会室に来ていたわけだけど、そこまで急ぐということは緊急の用事か何かだろうか。


「実は……この『あマゾねすっ!』という作品、今月頭で1周年だったのよ」

「うわぁ、めっちゃメタいこと言って……1周年!?」

「えぇ、他の作品ではそんなこと触れないというより普通に忘れてたのになぜか今回は投稿サイトを見て気づいてしまうという結果私がこんなことを言うことになったのよ」

「いつにもましてメッタメタだね……」


 それにしても1周年か……。

 思えばいろいろと思い出が……


「1周年という割にはこの作品の投稿頻度って少ないからあんまり感慨深くなくない?」

「基本メインの作品はこっちじゃないからね。でもまあ、ちゃんと投稿してるだけマシじゃないかしら?」

「そもそもこういう1周年記念とかって若干人気が出てる状態でやるものじゃないの? 正直言ってほとんど人の目に映らないこの粗大ゴミみたいな作品は人気とか出たら改めて記念とかやるべきだとわたしは思うんだけど」

「……さすがにそれは言い過ぎじゃないかしら? と言いたいところだけど確かにそれも一理あるわね。というわで多分ささやかに1周年を祝って本編始めていくわよ」


 こうして1周年という概念をよそに普通に本編が始まっていく。


~~


 先ほどの話題から数分経ち、生徒会室もいつものように生徒会メンバーが集まってゆく。

 夏休み明けのこの時期は何かと忙しい。

 というのもいろいろと行事が重なり合い、それをまとめるのがほとんど生徒会であるためだ。

 ちなみに前回スケジュールや概要をPCでまとめていたのはこのためである。


「……以上のことから、天音ちゃんと聖奈ちゃんがまとめてくれたスケジュール通りイベントを開催していくことになります。直近では体育祭や学園祭が主な行事になると思うけど、それ以外にも何か問題が起きた時には対処をよろしくお願いします」


 生徒会メンバーに対し、先生との話し合いで出た結果を話す飛鳥先輩。

 基本的にこの人は仕事をしている時は丁寧な口調、それ以外の時はかなり緩い口調となるオンオフがはっきりしている人だ。

 そのため現状会議中であるこの場では仕事モードONだった。

 ……この人仕事をしている時だけは憧れの生徒会長という肩書がよく似合うな。

 しかし他の生徒はこの人の裏の顔を知る由もないんだろうな……。


「以上にて今回の生徒会会議を終了とさせていただきます」


 一通りの会議が終了し、張り詰めていた空気が一気に解き放たれる。

 正直わたしはこの堅苦しい感じはあまり得意ではないため、会議前に紅谷先輩からもらったジュースを飲み、背もたれに寄りかかり一息ついた。


「あれ? おかしいなぁ……」


 ふと、視界に自分の鞄を漁っている飛鳥先輩を捉えた。

 見たところ何か探しているようだけど。


「飛鳥先輩、どうかしたんですか?」


 少し気になって飛鳥先輩に話しかける。


「実は私がいつも使ってるリップクリームが見つからないんだよー。この時期はよく乾燥するから持ち歩いているはずなんだけど見当たらなくて」

「リップクリームですか。普段使っているリップクリームにこだわりがないなら天音あたりが持っていたはずですけど」


 天音はよく人と会話することもある他に唇が乾燥しやすいということでリップクリームを所持していたはずだ。

 多分飛鳥先輩も似たような体質なのかもしれない。


「こだわりというほどでもないけど、メントール系は苦手かな」


 メントール系ってスースーするやつだったよね。


「確かメントール系じゃなかったはずなので大丈夫と思います。天音、ちょっといい?」


 天音を呼び、ことの顛末を話す。


「なるほど、わかったわ。ただ、予備がないので私が使ったやつになっちゃいますけどそれいいならですけど」

「天音ちゃんなら大歓迎だよ!」


 よくわからないことを言っている飛鳥先輩だが、天音からリップクリームを受け取っていた。


「可愛い子が使っていたリップクリーム使うとなんか興奮するよね」

「意味不明なので早く使ってください」


 わたしがそう急かすと、飛鳥先輩はリップクリームを使い始める。


「なあ、みんなこれを見てくれ」


 突然紅谷先輩がコーヒーのスチール製の空き缶を手にもってそう言っていた。


「ふんっ!!」


 紅谷先輩の掛け声とともに空き缶は潰れていた。


「どうだこの握力」


 いやどうといわれても……。


「聖奈、見てみて!」


 天音がわたしを呼んでいた。

 その手にはアルミ製の空き缶。


「ふんっ!」


 天音の掛け声とともにアルミ缶は潰れていた。


「……いや、お前の場合アルミ缶だからあんまりすごくないっていうか」


 ぴちゃっ……。

 よくよく見たら天音の握ったアルミ缶が天音の手に刺さって血を流していた。


「おいおい! 何やってんの!?」

「これは想定外ね」

「はい、救急箱です」


 御門君がくれた救急箱から消毒液と包帯を取り、治療を行う。

 傷はそこまで深くないので数日で治るだろう。


「消毒液って割と好きなのよね」

「いや反省しようよ。まったく、包帯とか後で買い足しておかないと」

「それなら私もリップクリームの予備買いに行くわ」


 さっきまで血を流していたというのに能天気な奴だ。

 ふと、飛鳥先輩のほうを見る。


 ぱくっ。


 飛鳥先輩が天音のリップクリームを食していた。


「天音ちゃんの味……」

「マジかこの人」


 その事実をわたし以外の人は見ていなかったらしく、かつ天音に言うのも気が引けたわたしはそのことを心の底にしまうのであった。


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