第8話「夢見がちな女子ってことなのかしら?」
とある日の放課後。
わたしは生徒会室にて天音とともに生徒会の資料作成やスケジュールをまとめていた。
基本的にはPCの付箋に一通りのスケジュールと概要を書置き、それをワードやエクセルに起こしていく。
あくまでわたしのやり方ではあるが、起動してから作業をこなせるし割と使い勝手がいい。
「……このノートパソコン、まだOSアップグレードされてないわね」
一緒に作業をしていた天音が急にそう言いだした。
わたしたちが使っているこのノートパソコンは学校で支給された生徒会専用のパソコンだ。
なので一般の生徒は基本的に使うことができないようになっている。
基本的には生徒会で使う内容や生徒の情報が少し入っているためパスワードをかけれるだけなのだが。
「アップデートしないと何かまずいの?」
実のところわたしはPCがあまり得意ではない。
というのも昨今の日本はスマホが出回っていることからあまりPCに触れることなく過ごしてきたというのが現状だ。
わたしもその現代っ子の一人なのである。
「アップグレードされてないこのOSは保証やプログラムサポートが利かなくなるのよ。わかりやすく言えばセキュリティソフトが更新されなくなったりするから情報漏洩などにつながったりするのよ」
「それはまずいね」
「確か少し前にグレードアップ用のUSBを情報処理室のPCに使った気がするわね。ちょっとそれを借りてくるから聖奈はもしものためのバックアップデータを外付けHDDに退避しておいてくれるかしら」
「わかった」
天音は生徒会室から出ていき、わたしは天音の言っていたように大事なファイルなどのデータを外付けHDDに移行させる。
数は多いものの、一つ一つのファイル容量が少ないため、作業は早めに終わった。
そしてそれから少ししたタイミングで天音が戻ってきた。
「ただいま! バックアップはとれたかしら?」
「うん。さっき終わったところ」
「じゃあ早速アップグレードしていきましょう。私は自分のPCのバックアップを取るわ」
「それじゃわたしからやっておくね」
天音からOSアップグレード用のUSBを受け取り、それをPCのUSBポートへ挿入する。
PC画面に表示されるフォルダからアップグレード用のデータを自分のPCにコピーし、起動させる。
規約などを軽く読み流し、問題がないため同意や実行を押していく。
すると画面は暗転し、システムの書き換えが始まった。
そしてわたしは気づいていなかった。
この後わたしに降りかかる悲劇の存在に……。
~~
天音に聞いた感じだとそこそこ時間がかかるということだったので、わたしはお茶を入れて飲んだりしながら小説に読み耽っていた。
「あれ? その小説前にも読んでなかったかしら?」
「ん? あぁ、もう一回読み返してるんだよ」
わたしが読んでいる小説は『星と空の軌跡』だ。
前にも説明したかもしれないが、一人ぼっちだった少女の不思議な体験談だ。
「なんかこの内容に惹かれるものがあってもう一回読んでるんだよね」
「聖奈もなんだかんだ夢見がちな女子ってことなのかしら?」
「なんか引っかかる言い方だけどあながち否定できないかもしれない」
実際わたしはこの小説にあこがれを抱いている。
もしかしたらわたしはこの小説の登場人物みたいに振舞いたいのかもしれない。
「それはそうと、もうそろそろアップグレードが終わるみたいよ」
天音の言う通りアップグレードは99%となっており、その少し後に100%となる。
最新のOS特有の起動画面となり少し違和感を覚えながらもログイン画面が開かれる。
パスワードを入力し、デスクトップ画面が開かれると壁紙は変わったもののファイルデータはちゃんと残っているようだった。
「私もちゃんとアップグレードされたみたい。それじゃあ作業再開しましょうか」
「うん。……うん?」
ふと違和感を覚える。
この違和感はアップグレードされた違和感ではない。
少し考えてみる。
………。
違和感があるものの、思い当たるものが浮かばず、作業を再開することにした。
「……あああぁぁぁーーー!!」
作業の再開で気づく。
デスクトップ上にあった付箋が全部消えていた。
「ど、どうしたのかしら?」
「……アップグレードした影響で付箋が全部消えた」
「それって」
「……これからのスケジュールとか概要が全部消えた」
「えぇー……」
結局この後わたしは天音に手伝ってもらい、何とか付箋に書いていた内容を何とか思い出し改めて付箋にメモを残す。
「ちなみに作者も小説のプロットとか今後の案を付箋に書いてたけどアップグレードした影響で全部消えたらしいわよ」
「本当にアップグレードとかする際はみんな気を付けてください」
※冗談抜きの実話です。
ともあれ今後本当に気を付けようと誓う聖奈だった。