第15話「あけお……めぇぇぇーーー!?」
「ふぁ……」
朝、目が覚めたわたしは布団から出る。
……今日も寒い。
リビングに行けば誰かしら暖房付けてくれているだろうか。
そう思いつつ部屋を出てリビングへと向かった。
「あ、聖奈。あけましておめでとう」
「うん、あけお……めぇぇぇーーー!?」
リビングには天音がいた。
ついでに暖房はついていたようだ。
いや、でもそこじゃなくて……。
「え!? 前回からもう年越したの!? この前クリスマスやったよね!? 次は普通大晦日とかじゃないの!?」
混乱のあまり普段よりセリフが多い気がする。
「えぇ、この前も言ったけれど最近は作者の時間軸を元にこの作品の内容が描かれるから投稿時期的にすっ飛ばしたらしいわよ」
「じゃあ甘酒とか神社でやるイベントとか日付変わる瞬間にあけおめ言うとかそういうイベント全部無いの?」
「それは思い紡ぐ道標のほうで全部やったみたいだから」
「わたしの青春って一体……」
いやまあ、無事に年越し迎えられたっていう点でいえばいいんだろうけれどね?
なんというか、年末の余韻とかってあるじゃん?
そういうものを感じたかったというかね。
などと心の中で謎の言い訳をしていると、天音が口を開いた。
「そんなわけで餅つき大会をするわよ!」
「どんなわけ!?」
「大丈夫よ! もうすでに他の人を呼んでるわ!」
何が大丈夫なのだろうか……。
「え? てか、うちでやるの? 餅つきって言っても杵と臼ないけど?」
「そこはなんやかんやあって引っ張り出してきたから大丈夫よ」
うわぁ、なんてふわっふわな理由なんだろう。
「それじゃあ私の家に行くわよ」
「あぁ、そこはちゃんと自分の家なんだ……」
「まあ聖奈の家って庭がないから」
「いわれてみれば確かに」
早速わたしたちは天音の家へと向かう。
といっても家を出て徒歩1~2分の所にある近所なんだけれど。
~~
「マジ?」
外に出て絶句していた。
めっちゃ雪が積もってた。
「大丈夫よ。ちゃんと餅つきスペースは確保してるわ」
「いや、単純に雪道歩きたくないんだけど」
そう言っても仕方ないと早い段階で気づき、歩を進める。
雪で足が埋まることで靴に雪が入ってきて冷たい。
「聖奈もブーツとか買ったらいいのに」
「ブーツ苦手なんだよね。履いたり脱いだりするのめんどくさくて」
その影響もあってか基本スニーカーとかしか持ってない。
そんなこんなで天音の家に着くと、門の前で数人の人が立っていた。
もちろんその人たちはいつもの生徒会メンバーとその関連の人たちだ。
「あ、聖奈様! あけましておめでとうございます!!」
「あけましておめでとう。みんな今年もよろしくね」
それぞれみんなが挨拶を終えたタイミングで早速天音の家の庭にお邪魔する。
天音の言った通り、すでに雪かきを終えて十分なスペースの確保ができているようだった。
その中心には杵と臼が置いてある。
天音の家の庭はそこそこ広く、昔はよくここでバーベキューなどを楽しんだこともあった気がする。
「それにしてもよく年始からこんなに雪かきしたね」
「えぇ、朝6時くらいから1時間ぐらいで終わらせたわ」
朝6時!?
なんでこいつは目的のためにこんなに動けるのだろうか。
「やっぱあんたすげぇわ」
「え? 急に褒められると照れるわね。もうちょっとボロ雑巾みたいに扱ってくれてもいいのよ?」
「ごめんやっぱあんたバカだわ」
「それより早く始めましょう」
「そうだね」
天音が自分の家に入り、あらかじめ蒸していたのであろう餅米を持ってくる。
そのほかにも調味料なども持ってきていた。
「揃ったけど、誰が餅をつくの?」
「それじゃあ聖奈が最初でお願いするわ」
「え? なんでわたし?」
「私との息が合うと思うからよ」
あぁ、餅ひっくり返すのはこいつがやるんだ。
「とりあえず手順としては餅米を杵で潰し切ってからよく見る餅つきが始まるらしいわ」
「へぇ、こんな感じかな?」
もち米が覚めないようにできるだけテキパキと作業を進める。
いい具合にもち米がつぶれたところで餅つきを開始する。
「餅をつくときは力任せに杵を振るんじゃなくて、落とす感じでつくのが基本らしいわよ。とりあえず形を整え……熱っ!!」
餅米をひっくり返そうとした天音がそう声を上げる。
でもなんかうれしそうなのが少し腹立つ。
「なるほどじゃあ早速ついてみるか」
言われた通りに落とす感じで杵を下す。
そして杵を持ち上げたタイミングで天音が水を付けた手で餅米をひっくり返す。
ぺったん、ぺったん。
そしてタイミングを見計らったように天音がわたしの下した杵の下に手を出し始めた。
今までうまくいってたこともあり、止めようと思ったのだが間に合わず天音の手に直撃する。
「悪くないわね!!」
「さてはお前これが目的だったな?」
年が変わっても天音のやることは変わらないらしい。
「出雲天音! あなたはやっぱりそういうことをやるんですね」
「出たわね巻き髪ロング」
「変わってください、あなたでは埒があきません」
川島さんがそういうが、倉木さんと西城さんに止められていた。
「愛菜、あなたは前回聖奈様とクリスマスを楽しんだでしょ! 次は私よ!」
「そうよ! 私も聖奈様と過ごせるならクソどうでもいい予定なんて立ててなかったわよ!」
そんな感じで倉木さんがひっくり返す役をやるようだった。
「聖奈様!私にはあいつより重い一撃をお願いします!」
「餅つきってそういう趣旨のものじゃないよ!?」
なんだかんだあったが、餅つきはみんなで回しながら成功し、味付けの作業を終えていた。
「ふぅ、こんなものだな」
少し離れた雪が大量にある場所で紅谷先輩がかまくらを作っていた。
「計画通りね」
何が計画通りかわからないけど、さっそく入ってみる。
中は思ったよりあったかい。
というより外が寒いから屋内に入ったような感覚に近いのかな?
「それじゃいただきます!」
みんなで餅を食べる。
つきたての餅ってなかなか食べる機会がなかったけどめっちゃうまい。
「聖奈」
「うん?」
天音が声をかけてきたので言葉を返す。
「今年もよろしくね」
「うん。よろしく」
多分わたしたちは今年も変わらない生活を送るのだろう。
でも今はそれでいいと思うのだった。