第13話「百合の間に男は入れちゃいけないんだよ?」
いつも通りの生徒会室内。
いつも通りに天音と共に過ごしていた。
「……ねえ聖奈」
「ん? 何?」
「私、最近思うことがあるのよ」
こいつが悩み事か……。
多分くだらないことだろう。
「そう……」
「ちょっと! 私は真剣に悩んでるのよ! すごくどうでもいいみたいな扱いはやめなさい!」
珍しく本気のトーンで怒られた。
それが気になったこともあり、少し話しを聞くことにした。
「で? どうしたの? 珍しくわたしに怒りをぶつけてきたみたいだけど?」
「聖奈は最近私が私らしくないって思うことはないかしら……?」
「え? うーんと……」
どういうことだろうか。
誰かと入れ替わっていたとか?
いやでもさすがにそれは気づくか。
だとしたらなんだ?
全然心当たりがないけど……。
「ごめん、さっぱりわからないわ」
「そんなわけないじゃない! だって、最近私は……」
「えぇ!? ほんとにどうしたの!? 情緒不安定すぎだよ!?」
マジで何があったんだこいつに。
「私は……この作中でドM少女で通ってるはずなのに最近その描写が全くない緩い日常を送ってしまってるのよ!?」
想像以上にくだらないことだった。
「えぇ……いいじゃんそれは」
「よくないわよ! そのせいで最近はフラストレーションが溜まりっぱなしなのよ! そしてそのフラストレーションの解消を行うのが聖奈の役目だったはずじゃない!」
「ちょっと待て、わたしはそんな目的でお前を殴ってねぇ!」
なんという横暴な持論を持ち出しだしてるんだこいつは……。
「というか、そういうのを常に教室とかでも言ってればわたしじゃなくても解消できるんじゃないの?」
「そういうことじゃないのよ……。それに私は教室とかでもいつも通りにしてるつもりよ?」
「え? いやいや、普段の言動とわたしといるときの言動違くない?」
基本的には勘違いされるような言動を周りにはなっているように感じるけど……。
今の生徒会という立ち位置もそれが原因で成り立ってるわけだし。
「毎回聖奈がフォロー入れてくれたり話を切ってくれるからそう思われていないだけよ?」
「そんなはずは……」
ない、と言い切ろうとしたが、考えてみると否めない部分がある。
でもその大半はわたしが被害を被らないためだったはずだが……。
「それに解消する相手が誰でもいいわけでもないのよ」
「それってわたしならいいってこと?」
「えぇ、だって私」
ガラガラッ。
「聖奈のこと大好きだもの。だから聖奈といろんなことしていきたいなって思ってるわ」
「……あっ、失礼しましたっ!」
ピンポイントな発言を聞いたであろう飛鳥先輩が扉を開けっぱなしにして走り去っていった。
「……なんかめっちゃ勘違いされてるような」
思い返してみる。
天音がわたしに大好きと伝えている告白シーンが出来上がっていた。
「飛鳥先輩!?」
わたしは教室から出て飛鳥先輩の走っていった方向へと向かう。
途中血痕があったので多分鼻血出してるかなこれ……。
そしてそう遠くない曲がり角で飛鳥先輩を見つけた。
「飛鳥せんぱ……」
するとそこにはおそらく生徒会室に来ようとしていたであろう御門君と楠くんの姿があり、なぜか正座させられていた。
「百合の間に男は入れちゃいけないんだよ? だから今生徒会室に行ったらぶっ殺すからね? わかった?」
「「……はい」」
威圧だけで二人を圧倒してる……正直怖い。
「あ、あの、飛鳥先輩?」
「聖奈ちゃん!? 大丈夫よ! 二人の花園は守って見せるよ!」
「いえ、だからそもそもそういうことじゃなくてですね」
「遠慮しなくてもいいんだよ? そのためになら殺しだっていとわないと思うから」
鼻血が制服にも付着してる状態でそんなセリフを言ってくるから恐怖しか感じないんだけど!?
仕方がないのでことの顛末を話す。
「うーん……それを聞いてもやっぱり天音ちゃんは聖奈ちゃんが好きなんじゃ?」
「いえ、多分それは解釈違いだと思うんですけど」
「ちょっと待ってください……」
飛鳥先輩の誤解を解こうとして先ほどのことを話したわけだが、それを一緒に聞いていた楠くんが何やら低いトーンでそう言っていた。
「今の話だと天音さんはドMだって言ってることになりますよね……?」
「え? うん。そうだけど」
「それじゃあ、僕が下僕になるにはどうすればいいんですか!!」
こっちはこっちでくだらないことを考えていたようだ。
正直そんなことは知らないしどうでもいいので諦めてみんなで生徒会室に戻ることにした。
「はぁ、疲れた」
「あ、聖奈おかえり!」
天音がわたしの鞄を物色していたので反射的に天音のほうへと踏み込み、横腹を思いっきり蹴り上げた。
「ぐはっ!! そう、足りなかったのはこれ、よ……」
ばたりとその場に倒れこみ、動かなくなった。
多分しばらくすれば復活するだろう。
「天音さんの顔、笑顔だ……僕にも一発お願いしてもいいですか?」
「いやだよ……」
しばらくして天音は復活し、また何気ない日常が始まっていく。
わたしもこの雰囲気に慣れたものだなと思いながら1日は過ぎていくのだった。