第12話「今日はハロウィンよ!」
10月31日。
そう、ハロウィンである。
校内でも『トリック・オア・トリート』という言葉を耳にしているくらいにはみんなが浮かれる行事なのだろう。
しかし、わたしはあまりこの行事が好きではない。
原因はもちろん天音の行動だ。
「聖奈、今日はハロウィンよ!」
「……そうだね」
適当に流しながらいつも通り読書に励む。
「今回もいろいろと用意したわよ! それと、パーティの招待状も来てたわよ」
「え? パーティって何?」
「飛鳥会長と御門君の家、つまり有栖家でハロウィンパーティをやろうってことらしいわよ。ちなみに仮装は必須だそうよ」
「なんでわざわざそんな行事をやろうとしたのか……そもそも本来なら話の内容的に思い紡ぐ道標のほうを優先して書くんじゃなかったの? こっちは特に考えつかなかったときに書くっていうスタンスだったじゃん」
「ついに聖奈もメタな発言したわね……あっちはもう冬の話だし、今回やろうとしていることはまだ続くけれど話は一区切りついたし、ちょうどハロウィンだったからこっちの投稿を優先したらしいわよ」
なんて厄介な……。
しかし、こうなってしまっては逃れるすべはないのだろう。
「はぁ、わかったよ。行きますよ。行けばいいんでしょう」
「珍しくキレ気味ね……そんなに嫌なら私も行かないわよ?」
「いや、行くよ。どうせ作者はあの手この手で確実に参加させそうだし」
参加自体は問題ない。
しかし、先ほどの話を戻すがわたしはハロウィンが好きではない。
その理由は天音だが、大本はそこではなく
「仮装はできるだけしたくないんだよね……」
そう、仮装が嫌なのだ。
基本的に私服は動きやすいパーカーやスキニーなどを着用するのだが、天音の持ってくる仮装用衣装が毎回フリフリのメイド服とかその系統であり、単純に着るのが恥ずかしい。
何なら中学生のころは制服すら恥ずかしかったレベルだ。
そんなわたしがそんな仮装用衣装が着れるかと言ったら着れないでしょ。
「聖奈、考えすぎよ。むしろ見られるという状況を楽しむのよ」
「それはお前の趣味だろうが」
「そういうなら自分で衣装を作るのが一番じゃないかしら?」
「それはセンス的に無理……え? てか今までの衣装全部自分で作ったの?」
「ええ。ちゃんと生地から無理のない範囲で素材を選んで夜な夜な少しずつ作っているわ」
……それでなんでこんな元気なんだこいつ。
ってそうじゃなくて、今までわたしに着せるための衣装は天音が徹夜して作ったものだったのか……。
「全く……それならそうと言ってくれればいいのに」
「だって言ったら余計着てくれないかなって思って……」
こいつは器用なんだか不器用なんだか……。
「いいよ。今回は着るよ」
「え? 本当に?」
「うん。せっかく作ってくれたようだしね」
「じゃあ早速用意するわね!」
意気揚々と準備を始める天音。
そしてその衣装が用意されるのだった。
「実際は恥ずかしがって私に八つ当たりしてくれるのが一番よかったんだけれども、自ら着てくれるだけでうれしいわね」
「今の一言ですごい好感度ダダ下がりだよ?」
~~
「……ねぇ天音」
「何かしら?」
有栖家へと向かう途中の道でメイド服を着た天音に問いかける。
なんでこいつはメイド服なのだろう。
「これ吸血鬼だよね?」
「そうよ?」
「吸血鬼ならズボンで良くない? なんでスカートなの?」
「私はかわいいと思うわよ?」
そう、吸血鬼の仮装衣装なのだが、どちらかというとゴスロリ気味な衣装であり、それでいて吸血鬼らしい部分をちゃんと出しているのだが想像していたより恥ずかしい!!
そうこうしている間に有栖家へと到着していた。
「……めっちゃでかい家だな」
「私も始めてきたけど、すごいわね」
有栖家は一言でいえば金持ちが住むような豪邸に住んでいるようで、それを実際目の当たりにしたわたしはとりあえず語彙力がなくなっていた。
とりあえず天音が門のインターフォンを鳴らし、使用人らしき人が出てきて中へと案内される。
「私もしかしてメイド被りしてない?」
「完全にしてるね」
見た目は少し違うが、使用人のメイドたちと紛れると少し見失いそうになりそうだ。
「あ! 天音ちゃん、聖奈ちゃんこっちこっち!」
「うん? 今飛鳥先輩の声が聞こえたけど……」
後ろを振り返る。
誰もいなかった。
「声はしたよね?」
「私も聞こえてたわよ」
するとトントンと肩をたたかれる。
そして振り向くと、そこには目が抉れた女性の姿があった。
「きゃぁぁぁああああーーー!!!」
手を振り払い、全力で逃げようとするが、途中で転んでしまう。
「せ、聖奈、落ち着いて」
「無理無理無理! 怖い! 逃げる!」
恥ずかしながらわたしは怖いものが苦手だ。
今も腰を抜かして立てない。
「さっきのは飛鳥先輩よ」
「……え?」
「あはは……聖奈ちゃんがそこまで怖がるのは想像してなかったなぁ。ごめんね?」
確かによく見ると飛鳥先輩だった。
それにさっき見た目の抉れがない?
「さっき目が……」
「あぁ、目を瞑ると目が抉れて見えるメイクなのよ」
実際に目を閉じてみせると確かに抉れているように見える。
「な、なるほど……怖いので目を瞑らないでください」
「しかし、衣装も相まって聖奈ちゃんの腰が抜けた姿もかわいい。なんか興奮してくるよ」
「その姿で近づかれたら本当に急所狙いそうになるのでやめてください」
その後、他の生徒会メンバーおよび知り合いと合流した。
御門君はわたしとは違うタイプの吸血鬼、紅谷先輩はフランケンシュタイン、楠くんは猫耳を付けているけど化け猫かな?
そして元いじめっ子3人娘はそれぞれ犬、サル、雉の仮装をしていた。
「ちょっと待って? 君らは今日はハロウィンだって忘れてない?」
「そんなことないですよ?」
「じゃあその格好は一体……?」
「だってコスプレといえど聖奈様の犬になりたいじゃないですか。そして犬と言ったら桃太郎じゃないですか」
その理論は全くわからないけど。
「くそぅ……私も犬になりたかった」
「じゃんけんなら仕方ないですよぉ」
こっちはこっちでとんでもなくくだらない争いが行われていたようだった。
「それにしても聖奈様のその衣装とても素敵です!」
「そうかな……天音が作ってくれたんだけど、わたしは恥ずかしいんだけど」
「くっ……今回はあの女のことを認めるしかないようね……」
何を言ってるのだろうか。
「彼女らは聖奈の犬にはなれないのにね」
気づいたら隣に天音がいた。
「だって私が聖奈の犬みたいなものだし」
「いや、そうはならんだろ」
何はともあれその後もハロウィンパーティは続くのであった。