第11話「尺の都合上仕方ないのよ」
前回までのあらすじ。
ほぼ毎回やっているこの作品の冒頭の茶番が思いつかなかった天音たちだったが、そんな茶番を早々に切り出し翌日を運動大会に仕立てることに成功した。
華神乃森運動大会は各クラスと生徒会で実力を競い合い、最終競技を終えるまでにできるだけ多くのポイントを取得していたチームの勝利となる。
第一競技である『突撃! 〇×クイズ』で大半の生徒が水浸しになるも生徒会メンバーは特に苦労することもなく完走した。
「さあ、この後第二競技以降どんな波乱の展開が待ち受けているのか!」
……と、天音が解説していた。
「前回のあらすじはわかるんだけど今の説明全部お前がやってたの!? というかマジでこれ続くの!?」
「ちなみに今日の見どころは聖奈のポロリよ!」
「出ないわ!! 大嘘つくなぁーー!!」
ばきぃ!!
結構ヤバめな音を出すも天音は痛がりながらムカつくぐらい笑顔だった。
というかわたしはポロリするほど体の発育よくないわ。
「この感覚……とても久しぶりね……そんなわけで本編、始まるわよ……」
ばたりとその場に倒れる天音。
そんな状態を引き継ぎながら華神乃森運動大会は再開されるのだった。
~~
先ほどの状況から天音が伸びている状況で第二競技が発表される。
「第二競技は……『強風100m走』だー!!」
強風100m走……名前から聞くに風に煽られながらやる100m走のようだけど。
「基本的には普通の100m走のルールとは変わらずに完走できれば勝利となります。しかし、通常の100m走と違うのはゴールから吹き荒れている巨大扇風機の風! ただ速いだけではなく、いかに風の抵抗を受けずに走ることができるかがこのルールの肝となります! また、このルールは全員同時スタートとなるため、地面に両手がついた人は即失格となりますので気を付けてください!」
なるほど……巨大扇風機か。
幸いこの華神乃森学園のグラウンドは砂ではないためその辺の心配はあまりなさそうだ。
しかし、巨大扇風機ってバラエティ番組で見たくらいだけどかなり風力があったはず。
「そして生徒会メンバーからは有栖御門と近衛聖奈が参戦いたします!!」
そうだった!
次わたしじゃねーか!!
運動自体は好きだけどわたしにこのルールやり切れるのか……?
不安になりながらも仕方ないと思いながら御門君と共にグラウンドへと向かうのだった。
~~
どうやらこのルールは一クラス当たり6人で参加する種目となるようで、先ほどの第一競技とは人数が大幅に減っていた。
「さて、準備が整ったようなので早速始めていきましょう! よーい……スタート!!」
開始とともに巨大扇風機が回転し始める。
その間にわたしを含めた生徒たちは全員距離を稼ぐためにできるだけ前へと走る。
しかしそれも一瞬であり、巨大扇風機が出す風力はわたしが思っているほど甘くはなかった。
というのも、前に全く進めない……それどころか前に進むほど風力が強くなり、前を行く人が吹っ飛ばされてしまうとそれに巻き込まれる形で失格になる可能性がある。
このルールかなり難しい。
「おっとー、50mほど進んだ人たちがなかなか進めていない! それはさながら台風の日に雨風を受けながら出社する現代社会人の縮図のような光景だー!!」
いやだなその例え!!
しかし、踏ん張っているだけでは勝利はない。
考えろ、どうすれば前に進める?
少し前を進むのは数人程度。
先頭の人からゴールまで推定15mといったところか。
「近衛さん。提案があります」
「え? 御門君? ごめん強風であんまり聞こえない!」
「前の生徒たちの配置を見てください!」
言われた通り前の生徒たちを見る。
生徒たちは立ち位置も距離もばらばらだけど……。
「気づきませんか? 距離を一定にすると、横一列に並ぶんです! 僕の運動神経では難しいですが、近衛さんの運動神経であれば前の人たちを風受けとして縫ってゴールまで進めるんじゃないでしょうか!?」
少し考える。
確かに御門君の言うことはもっともだった。
自転車競技などで先頭を走る人の後ろについていくことで風の抵抗を受けていない後ろの人の体力を温存させたり前の人を風受けにして風の抵抗を減らすことでトップスピードで追い抜かすなどという技術がある。
そしてこの作戦は先頭にいないわたしたちでないと使うことのできない戦法だった。
「わかった。やってみる!」
早速前の人の後ろに付く。
確かに風の抵抗はかなり少なく、踏ん張る体力も温存することができる。
そしてそこで温存した体力を使ってさらに前の人の背中へと向かう。
ここで不安なのは前の人が吹っ飛ばされないことだけど……順調に前に進めている。
「おっとー! 生徒会メンバーである近衛聖奈! うまく風の抵抗を減らして順位を上げていく!」
「さすが聖奈ね。持ち前の運動能力を生かして力のONとOFFをしっかり使い分けているわね」
先ほど伸びていた天音が復活していたようで実況に参加していたようだ。
実際天音の言う通りこれは力の使いどころが必要な戦法なのかもしれない。
先頭の人を捉え、すぐさま背中へと回る。
人の背中にいて気づいたが、踏ん張ることで後ろの注意がおろそかになっているようでみんなわたしが後ろに付いたことに気づいていないようだった。
先頭の人も例外ではなく、後ろに付くことができた。
……だが、ここからが難所だ。
残り10mほどとなるが、ここを出たら風力がほぼMAXの状態の風を受けて進まなければならない。
勝負はおそらく一瞬だろう。
わたしが駆け抜けてゴールするか、風力に負けて脱落するかだ。
意を決して一歩踏みこむ。
そして強く地面を蹴るように前へと進んだ……。
そして、数歩走り、吹っ飛ばされた。
「き、決まったー!! 一位完走は近衛聖奈だー!! 最後吹き飛ばされてしまいましたが、ゴールの白線を踏んだことでこの勝利を掴みましたー!」
やった。
わたし、ゴールできたんだ。
吹き飛ばされながらそう思う。
「おっとー!? ここで近衛聖奈のジャージが裏返ってしまいあられもない姿となったー!!」
その飛鳥先輩の実況を聞いて割れを取り戻し、急いでジャージを元に戻した。
そしてそれに気を取られた先頭のほうの生徒はこちらを向いたことで気が緩んでほぼ吹っ飛ばされて失格となった。
~~
「……という感じで運動大会は終わったわね」
「え!? さっき以降の全カットなの!?」
気づいたころには運動大会が終わっており、片付けの作業に取り掛かっていた。
「尺の都合上仕方ないのよ。ちなみにあの後紅谷先輩の筋肉があらわになったり、御門くんと楠くんのいい感じのBLショットが見れたりしたわ」
「尺の都合上って何!? ていうかそこの需要はごく一部にしかうけないよ!?」
結局今回もメタな発言を残した天音にツッコミを入れて運動大会は幕を閉じたのだった。