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あマゾねすっ!  作者: 月見
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第1話「早くわき腹に一発蹴りいれるのよ!」


 わたしの名前は近衛(このえ)聖奈(せな)

 華神乃森(かがみのもり)学園に通う二年生で一応この物語の主人公らしい。

 勉強は中の上、運動はある程度できて性格も冷静なタイプだと思う。

 いたって普通の学生であるが、しいて言うなら今わたしの隣にいる友人が特殊なくらいだろうか。


「ねぇ、聖奈。聞いてる?」


 隣の長髪茶髪メガネのこいつは出雲(いずも)天音(あまね)

 小さいころから成績は常に上位で運動神経がよく、おまけに顔立ちがよい美少女で他の人たちからなぜか好かれている。

 わたしとこいつは小さいころからの付き合いであり、俗に言う幼馴染というやつだ。


「あぁごめん。ほとんど聞いていなかったわ」

「もー、聖奈っていっつも聞いてないんだから」


『あ、天音さんよ!』


 早速いつものように野次馬たちが集まって来たようだ。


『いつ見てもきれいだなぁー』

『天音さんもそうだけど聖奈さんもクールでかっこいいー!』


 おっと、わたしもか。

 まあそれはさておき、才色兼備というのだろうこいつにも一つだけ問題があるわけだ。


『ちょっとさっきのやばくない?』

『確かにね。さすがにあれは度が過ぎてるよね……』


 ん?

 何やら他の野次馬たちとは違う会話をしている生徒がいるみたいだが。


「どうしたのかしら?」


 いつの間にかその生徒に話しかけている天音。

 こいつのことだから厄介ごとに巻き込まれようとしているのだろうか。


「さっきここに来る途中でいじめがあって……私たちは巻き込まれたくなくて見て見ぬふりをしちゃって」

「最悪ですよね、私たち……」

「そんなことないわよ」

「……え?」

「誰だって自分の弱さを抱えているものよ。それを他人に相談できただけで大きな一歩を進んだことになるわ」

「天音さん……」

「それじゃあ早速その現場に行ってくるわね!」


 早足で廊下を駆けて去って行った。

 ……って、わたしも早く追いかけないと。


「いじめを助けなかったことに咎めることなく、むしろ優しく励ましてくれて自分で仲裁に行くなんて……天音さんってやっぱりステキ」

「あー……多分そんなものじゃないと思うけど、ありがとね。わたしももう行くから」


 たぶんあいつはマジで仲裁に行ったわけじゃないだろうから早く見つけないとな……。

 わたしも早足で廊下を駆け、天音を探しに行くのだった。


~~


 おそらくこっちの方向だったと思うけど……いた。

 空き教室が並ぶ旧校舎、その教室の一つに天音と床にへたり込んでいる男子が一人、女子が三人ほど立っている。

 状況から察するに男子が女子三人にいじめられてたところに天音が来たみたいだ。

 とりあえず邪魔にならない程度に教室に入り込む。

 さて、先ほどの話に戻るが、こいつには一つだけ問題があるわけだ。


「さぁ! 私を思いっきり罵倒して蹴り飛ばしなさい! この人にやってたのより強く!」


 天音はドMなのである。


「はぁ!? あんた馬鹿なの? なんで私達がそんなことやらないといけないのよ?」

「それはもちろん私がそのいじめを受けたいからよ! だからほら! 早くわき腹に一発蹴りいれるのよ!」


 そう言って四つん這いになる天音。

 またハイレベルなことやってるな……。

 女子三人はガッツリ引いてるし。

 天音のこういった行動は今回が初めてではない。


「仕方ないわね。確かに理由が必要みたいだからとりあえず私を罵倒しなさい」

「………」

「何やってるの? 早く早く!」

「何こいつキモ……もう行こう?」


 そう先頭の女子が言い、それに便乗して他二人の女子も出入り口に歩こうとする。

 だが、それは天音の先回りによって塞がれていた。


「あなたたちそのレベルで人をいじめてるの?」


 発言と共に先頭にいる女子の胸倉を掴み、言葉を続ける。


「そんな低レベルの発言と行動力でよくいじめをしようと思ってるわね?」

「な、なんだよ、教師にでもチクる気か? やってみろよ」


 急にその女子から手を離す。


「とりあえずあなたたちそこに並びなさい」

「はぁ? なんで……」


 女子達は言葉を続けることなく、指示通り目の前に並んでいた。

 理由は天音の顔が先ほどとは違って冷酷でなんか人を殺しそうな感じだからだ。

 だがこの時点でまだこいつはキレていない。

 言ってしまえばキレる一歩手前である。


「今から日頃のストレスとか恨みとかを私にぶつけなさい。ちなみに殴る蹴るはOKよ!」


 ……これどっちがいじめかわからないな。

 そんなことを考えていると三人のうちの女子の一人が天音を蹴り飛ばし声をあげる。


「あんたさぁ、何私らに指図してんの? 顔がいいからって愛嬌振りまいてさぁ」


 その女子は壁を背に座り込んでいる状態の天音に近づいて腹辺りを踏みつける。


「もう邪魔なんだよお前」

「………」


 その場が静まり返る。

 天音は静かに立ち上がる。


「話にならないわね。いじめはもっと他人を貶めるようにやるものなのよ! なのに何? この底辺をえぐったような罵倒は? バカなの? それに蹴り飛ばすのはいいとしてお腹を蹴ったとき、全然力が入ってないじゃない! もっとかかととかつま先を使ってえぐりなさい!」


 意味不明なキレ方だった!

 さすがにこれは相手側もキレるだろ……。


「ぐすっ、そ、そんなに怒らなくてもいいだろっ」


 泣いてる!?

 しかも三人とも全員!?


「泣いて許されると思ってるの!? あなたたちが行っている行動は私から見たら冒涜にしか見えないわ! それを悔いてぐわっ!!」


 そろそろ止めないとさらに面倒そうだったのでわき腹を思いきり蹴り飛ばす。

 というかわたしがキレた。


「おまえさ、いい加減その無意味にキレる癖やめろよ」


 わき腹を中心に急所を避けたところをつま先とかかとを使って蹴りまくる。


「あぁ!! いい!! これよ!! これが欲しかったのよ!!」


 ついでに攻撃を受けてるときに喜びながらよだれたらす癖も直してほしい。

 しばらく蹴っていると、天音はどうやら気絶したようだ。

 わたしは蹴るのをやめて天音の襟元を掴み、教室を出ようとする。


「悪かったね。でももういじめはやめたほうがいいよ。またこいつに目つけられると思うから」


 それだけ言い残して天音を引きずりながら教室を後にする。


「天音さん……僕をいじめから守るために……なんて優しい人なんだ!」

「近衛聖奈……こんなことをした私たちを……なんて素敵な人」


 男子と女子三人はそれぞれ勘違いした二人の印象を刻まれるのだった。


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