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かのんの章3

 数日後、奏音かのんは点滴を受けつつ、柔らかい食べ物から食べることができるようになった。

 微熱は続いているが悪化はしておらず、診察の結果過労と夏バテ、精神的ストレスなどが重なった為の風邪である。

 痩せているものの血管が細い奏音の為、肘の内側ではなく、少し痛いが手の甲に点滴の針を刺している。


 普通の注射の場合は、すぐ終わるので良いが、点滴は長時間の為、無意識に腕を動かしたら、針が、細い奏音の血管を突き抜け、液漏れを起こす。

 その危険を回避したのだ。

 手の甲は最初は痛いが、その後は針を抜かず点滴を取り替えるだけで済むので、奏音の痛みが増すことはない。


「美味しい……えと、お、お父さん」

「本当だね。うん。もう一口いるかな?」

「はい!」


 和生かずおは、嬉しそうにスプーンで食べさせる。

 おかゆとデザートのゼリーだけだが、奏音は本当に幸せそうにニコニコしている。

 この後、祖母のゆいと交代して、亜美あみと仕事である。

 後4人バイトはいるが、二人は昼間限定のパートで、残りの二人は大学生、彼らは主に夜勤であり、和生達の家の隣の離れに住んでいる。


「あ、あのね、お父さん……あのね?」


 奏音は問いかける。


「ん? どうしたのかな? 奏音」

「あのね? さ、紗絵さえお姉ちゃん、元気かなぁって……学校忙しいのかなぁって」

「奏音……」


 紗絵は怪我の為入院して、学校を休んでいる。

 付き添いは交代で美代子と亜美である。

 年齢も年齢なので、そんなに長時間は滞在しなくて良いと紗絵は言うが、食事の支えと着替えなど女性の手が必要である。

 正式に養女に迎える予定の奏音の優しさに和生は胸が熱くなりつつ、心配させてはいけないと、


「紗絵はね、お父さんの友人のところに緊急に手伝いに行って貰ったんだ。おじいちゃんのお友達のおじいちゃん先生のお孫さんのお家に、奏音より少し小さい子がいるんだけど、お孫さんは弁護士、旦那さんはお医者さんで、忙しくてね。奏音が退院するまでには戻ってくるよ」

「本当? お姉ちゃんに会いたいなぁ。それに、本当のお姉ちゃんになってくれるんでしょう? 嬉しい」


笑顔になる奏音に、和生は微笑んだ。

 あんなに暗い顔をしていたこの子が、こんなに可愛く笑ってくれて嬉しい。

 そう思いながら食事を終わらせて、ゼリーを食べさせていたところ、看護師が声をかける。


小鳥遊たかなしさん」

「はい」


 窓側の部屋のため、カーテンで締め切っていても涼しい空間のカーテンが開けられ、


「済みません。お話が……」

「済みません。娘はまだ小学生ですので一人にできません。家族が来るか、父の親友がこの病院の理事長先生ですので、先生にまずお伝え願えますか?」

「いえ、奏音ちゃんのお父さんだという……」

「父親は私です。奏音? お父さんは?」

「和生お父さん!」


笑顔の娘に、ゼリーを一口食べさせながら、


「連絡も無く突然やってきて父親だなんだと、育児放棄していた元奥さんと同じ罪ですよ。ついでに、名前が出されたくないから渋々引き取ってやるとでも思っているなら帰って下さい。奏音は私が育てます。お帰り下さい」


そう低い声で言うと、にっこりと笑いながら、


「奏音。最後の一口だよ、あーんして」

「あーん!」


 食べさせると、笑顔で微笑み、


「美味しかったね。よく食べれたね。じゃぁ、済みません。これお願いします」


 食器を看護師に押し付けると、カーテンを閉めた。




 その後、和太郎から理事長に連絡が行き、


「和生が怒っとったぞ? 奏音の食事の時間に来るなんてと。看護師の態度もいかんわ。しかも父親が来るまで三日以上経っとる」

「あぁ、言い訳してはったけれど、父親はもう再婚しとるて。それでも引き取りますいうんで、奥さんと相談しましたか? てあては言うてな? そうするとしてないて言うし、そんなアホなことありますかいな言うて、嫁はんと話し合ってからきて下さい言うてな? それに、長期の虐待をしたんはあんたの元嫁や、でも、放置した元旦那であり、あの子にとっては一生父親や。でも聞いたで? あんさん、奏音ちゃんが何回か助けてって電話かけたの、怒鳴りつけて切ったんやってな? 可愛い娘のsosを無視した時点で父親失格や。出ていきや言うて」

「ありがとう。1日でも早く退院させたいんやけど、紗絵がまだ入院しとるんや……傷のことを聞いたら、奏音は泣くやろ」

「そうやなぁ……看護師の方は別の部署に配置換えしといたわ」

「頼んだ。本当に」


電話を切った悪友同士は、次は奏音の実父が何をしてくるか半分楽しみにしていたのだった。

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