表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

亜美の章

「あ、じゃぁ、私が。奏音ちゃん。こんばんは。亜美だよ」

「こんばんは、えっと……」

「こっちだよ」


 靴を脱いで端に置くと亜美についていく。

 すると、脱衣所があり、


「はい、奏音ちゃん。脱げる?」

「は、はい」


汗でべたつきごわついた服を脱ぐと、服を脱いだ亜美に連れられ浴室に入る。


「座って。お湯をかけようね」

「あの、大丈夫です」

「駄目だよ。ちゃんと洗ってあげるから」




 亜美が思っていた以上に気になったのは、奏音の汚れより華奢な体だった。

 それに、亜美は口にしなかったが、あちこちに青あざと火傷痕が散っていた。

 これはどう見てもタバコを押し当てたり、叩いた時にできる虐待の跡である。

 しかし尋ねたのは、別のこと。


「奏音ちゃんは小学校一年生?」

「いいえ、よ、四年生です」


 こんなに小さいのに、四年生なのか!


「じゃぁ、頭洗う時、目が痛くないように目を閉じれるね?」

「は、はい。大丈夫ですよ? あ、亜美さん……亜美お姉さん」

「ダメダメ。一回丁寧に洗っておかないとね。後で私が髪を切ってあげるから」


 目を丸くする。


「切ってくれるんですか?」

「うん。いやぁ……ごめんね? お店でじっと見ちゃったのは、綺麗な髪なのに、整えてみたいなぁって。あたし、これでも美容師になろうと思って、学校に通ってるんだ」

「すごい! お姉さん」


 顔と体を洗い、そして、亜美に一回頭を洗ってもらった後、お風呂に浸かる。

 大きな浴槽は深いので、一段内側に座ることができる。


「うわぁ……うわぁ……テレビで見た、温泉の浴槽みたい」


 ついキョロキョロしてしまったのを、かけ湯をして入ってきた亜美が笑う。


「でしょ? ここのお風呂、おじいちゃんが入るのが大好きで作ったんだって」

「すごい〜」


 亜美は奏音の長い髪を確認する。


「ウンウン。綺麗になっているけどもう一回洗って、トリートメントしてからね」


 その言葉通り、もう一度丁寧に洗ってから、トリートメントをすると、お風呂を出て髪をパッと拭いてから包み、体を拭くと、用意されていた子ども用のパジャマというより、女性もののSサイズのTシャツとショートパンツ。

 それを着ると連れていかれ、そして居間の椅子に座ると亜美がドライヤーを当てながら、


「どんな髪型がいい?」

「えっと、短め……」

「もったいない! 普通は10cmがオススメなの。膝裏まで伸ばしているなら、それより、腰まで切らせて頂戴。そして、あたしが三つ編みとか手伝うからね?」

「で、でも、ここに住めるか……お母さんに知られたら殴られる……給食費もくれない、水道ガス、電気も止められて……お水はスーパーの無料のお水、そして、お姉さんのいるコンビニで夜だけおにぎり……うっ、うぅぅっ……ウワァァン! もう嫌ぁぁ。おうち帰りたくないよう!」


わんわん泣きじゃくる奏音を抱きしめ、頭を撫でる。


「大丈夫。奥さんとかおじいちゃんがいるからね。泣かないで」

「どうしたの?」


 扉が開き、美代子と紗絵が顔を覗かせる。


「お母さんに叩かれるって……」

「……やっぱり」


 美代子はアパートの住人から時々、酔っ払い戻ってくる奏音の母の姿や、奏音に暴力を振るう様子、声を殺して泣く奏音、ヒステリックに喚く声が聞こえると聞いていた。


「奏音ちゃん。大丈夫だよ。うちの子になりなさい。大丈夫だからね」


 美代子は抱きしめると、頭を撫でた。

 置いておいた古着だが、娘の小さい頃の服を着せ、長く伸ばしていた髪を亜美にカットしてもらう。

 そして、二つに分けて三つ編みにすると、ぐずぐずする奏音を抱き上げ、


「はいはい。お姉ちゃんと寝ようね」

「うえぇぇぇ……」


 泣きじゃくりながらしがみつく少女と、同室で過ごす紗絵と亜美が一緒に眠るのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ