紗絵の章2
今日は、和生は、紗絵の病院に荷物を持っていく。
「あ、お父さん。来てくれたの? ありがとう」
にっこり笑う笑顔は朗らかで、怪我を負った暗さや辛さを見せない。
強いと言うより頑固な娘である。
しかし、
「うん、来たよ。紗絵。そして、お土産」
「え〜? 何々?」
「奏音が、紗絵に手紙を書くんだってね……紗絵の怪我のことは、伝えていないんだ。ごめんよ」
「何言ってるのよ。お父さん。奏音ちゃんに言わないでよ。絶対言っちゃダメだよ。まだ体調悪いんでしょう?」
紗絵は目を見開く。
「うん、まだ流動食だよ。ゼリーは食べられるようになったけれど、それだけで喜んでる。何回かお菓子を買ってこようかと言っても、前にお父さんが交換してくれたグミがあるって、しかもまだ開けてないんだって見せるんだよ。本当にお父さんは涙が出たよ」
涙ぐむ父に紗絵は、妹になる子がそんな生活をしていたのかと胸が痛み、そして涙もろいなぁと苦笑する。
「あのね、紗絵。伝えておこうと思って。2、3日前、奏音の実の父親が連絡もなく来てね。しかも面会時間じゃない昼に、お父さんが奏音に食べさせていたら、看護師が連れてくるんだ。腹が立って食器を押し付けて帰って貰ったよ。大原のおじさんにもおじいちゃんから伝えて貰って、奏音のことをよくよく頼んでおいたよ。大原のおじさんは、奏音を気に入っているから」
「大原のおじいちゃんに、奏音ちゃんはあげちゃダメよ? 家の子になるんだから」
「分かってるよ。それより、読むかな?」
白い無地の封筒の後ろにのりを塗らず、可愛いシールだけ貼っているのも逆に可愛いと、包帯を巻いた手で便箋を取り広げると、手は痛み止めを注射しているのだが、チクチク痛むのを我慢し、そっと開ける。
4年生にしては綺麗な文字で逆に驚く。
『奏音の大好きなさ絵お姉ちゃんへ』
紗の漢字は習っていないらしく、平仮名だが『お姉ちゃん』の文字に嬉しくなる。
『お姉ちゃん、お元気ですか?
奏音は点てきをして、毎日ご飯を食べて、運動をしています。
階段を少しずつ上り下りしたり、お父さんとお母さんと手を繋いで、びょうとうの中を数を数えながら歩いています。
ベッドにいる時は、おばあちゃんに本を読んでもらったり、おじいちゃんが買ってくれたドリルをしています。
お姉ちゃんの名前をかけるようになりたいです。
お姉ちゃんが戻ったら、一緒に遊んで下さい。
大好きなお姉ちゃんへ。
小鳥遊奏音』
「わぁ、小鳥遊が書けてる! 綺麗な文字ね。お父さんが教えたの?」
「前に名前の意味を教えたんだよ。ベッドにいる時に練習していたよ」
「嬉しい……しかも、こんなにシールが入ってる」
「亜美ちゃんが持ってきたんだよ。そうすると奏音が、亜美ちゃんと紗絵と3人でお揃いがいいと、一所懸命に分けていてね。亜美ちゃんが喜んでいたよ」
「私も嬉しいな。あ、可愛い。お花にニャンコ」
笑う。
そして、
「お父さん。奏音ちゃんに、ありがとうって伝えてくれる? 今度手紙を書くからって、待っててねって。あ、それと、お父さん。便箋と封筒、可愛いの買ってあげて。これはおじいちゃんの便箋と封筒でしょう? 亜美に頼んだら選んでくれるよ。キャラクターものでもいいし、四葉のクローバーとかも可愛いから」
「あ、そうだね。選んでもらおうか」
「そうだよ」
しばらくして帰って行った父を見送ると、紗絵は奏音に貰ったてがみを、鍵のかかる引き出しに大切に仕舞ったのだった。




