青春の雄叫び
俺の名前は田中たつお。今日から希望に満ちた高校生活が始まる。絶対に高校では彼女をつくってリア充ライフを満喫してやるんだ……!待ってろ未来の恋人候補たち!高校生になった俺は本気だぞ!
♢ ♢ ♢
長かった入学式も終わって、担任の先生からの挨拶も終わった。ようやくだな、この時を待ちわびてたぜ!
担任の先生がひと通り授業や年間スケジュールなどの説明を終え、ひと息つく。
「ふぅ……。さて、それでは早くみんなが打ち解けるためにも、1人ずつ自己紹介をお願いしますね〜」
キターーーーーーーー!!!
この自己紹介のために徹夜で練習してきたんだ…。スタートダッシュを華麗に決めて彼女ゲットに近づくぜ…!
「それでは次は……。田中君ですね」
よし。それじゃあまずは気さくな挨拶からいくぜ…。
俺は元気よく立ち上がると、教室を見渡し、肺にありったけの空気を取り込んだ。
「ハッ、ハイ!あッあのッ、えっと……。アッアッ」
くそっ、こんな大事な時にコミュ障が出てきやがったッ……!落ち着け俺!せめて名前くらいは言わなければ隠の者であることがバレてしまう!
あっ、今目が合ったあの子かわいいな……。
「アッアッ、名前は、たッ田中……です!えと、あの、その彼女募集中……でしゅ……」
ざわざわ……
しまった……!願望が声に出てしまった!恥ずかしすぎる……。
結局、俺は残りの自己紹介が終わるまで机に頭を伏せてやり過ごすのであった。
♢ ♢ ♢
「なんでこうなった……?」
俺は『いつもの』ように個室トイレで弁当を食べ終え、入学式から今に至るまでを思い返していた。
あの悪夢の自己紹介から当然のようにクラスでは孤立。気を遣って声をかけてくれた男子にもうまく話せずに距離を取られる始末。そんな環境から部活動に入ることもできず、今では便所メシがデフォルトになってしまった……。
だがしかし、来週末には高校生活最初のイベントである遠足が待っている。この遠足でまずは友達をつくり、彼女をつくるという偉大なる俺の野望の第一歩とするのだ……!
そうと決まれば午後にある遠足の班決めで、少しでも話しやすい人たちと同じ班になることを祈ろう。
気持ちを切り替えようと地味なデザインのイヤホンをつけ、お気に入りのアニソン
を流しはじめた。
今日はこてこての萌え曲の気分かな〜♪
ピロリン!
ん?メール?昼間っから誰だ?まあ友達いないから予想はつくけども。それに俺は自慢じゃないけど家族以外のメールアドレスも知らなければSNSもやってない。
目覚まし機能付き音楽プレーヤーとなっている愛用のスマホでメールアプリを開く。
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from ♡あいり♡
お兄ちゃんへ
今日は友達とカラオケ寄って帰るから、
夜ご飯はひとりで食べてね♡
昨日作りおきしておいた肉じゃがが
冷蔵庫にあるから温めて食べてね♡
愛しの妹より
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メールの差出人は愛しの妹からであった。
今年で中学三年生となった俺の妹、田中あいりは控えめに言って超絶美少女であり、成績優秀、スポーツ万能な完璧超人である。
俺と違って友達も多いしなぁ……。実は本当の妹じゃなかったりして……。
……ってそんなことないか!さすがにそんな漫画みたいな展開はないよな!
そんなくだらないことを考えながらも、非常に慣れた指さばきで妹への愛を画面いっぱいに打ち込んでいく。
妹の兄離れのためにもはやく彼女をつくらなければ……!
妹の愛を全身に宿しながら、こっそりと教室へ戻るのであった。
♢ ♢ ♢
……心が折れそうだ。
くじ引きで決まった班員を横目にため息をつく。
よりにもよって学年一のリア充たちと同じ班になってしまうとは……。
口癖が「あちし」の金髪ギャル女、校則無視の赤髪ピアスマン、さらにはガチムチ体型のガチホモ坊主……。
ここが地獄ですか……?
こうして今日も机に伏せてやり過ごすのであった。
次回、田中たつお遠足に行く。