愛を誓った日
無事に赤ちゃんが生まれた数年後。
二人は中学生になった。学校指定のリュックを背負い、学校に向かっていく。
成長しているんだなって。私はというと教職に復帰し、育休前までいた進学校で体育を教えている。
「ふぅ、疲れた。プログラムは大体こんな感じかな…。帰ろ」
私はカバンを持ち職員室を出る。
学校の外に出るとなにやら黒い車が止まっていた。
「満? 迎えにきてくれたの?」
「違います。今の俺は阿久津家の運転手。話したい人は中にいるよ」
「わかった」
私は中に乗り込んだ。
中には印象的になっていた三人がいた。夢野さん、阿久津さん、球磨川さん。
三人の活躍はテレビで見ている。
「先生、お久しぶりです。先生が復帰してると聞いて見に来たんです」
「こいつ、今日体育ないのかってソワソワしてたんすよ」
「ああ。あるなら混ざりたかったな」
球磨川さんが混じったら大変だなあ…。
「パン子さんも変わってないね。クマとか」
「そりゃもちろんアイデンティティですから」
「そうそう、エレナ、私も使わせてもらってるよ」
「おぉ、嬉しいですねぇ。ま、あれ片手間で開発した代物なんで結構ボロありますけどね」
アレが片手間ってすごいなあ。
高校の時に天才である片鱗は見せてたけどここまでとは…。素直に感動したよ。
「みんなはまだIUOやってるの?」
「もう十年くらい前のゲームはさすがに。それに、私子供いますし」
「結婚したんだ!? 知らなかったなぁー」
パン子さん結婚してたんだ。たしかに結婚しててもおかしくない…。もう29歳だもんね。酒も飲めるわ、結婚もできるわ。
でも、まだ三人とも若いなあ…。
「先生、とりあえず、ありがとうございました。今回それだけ伝えたかったんです。お世話になったので」
「え、あー、どういたしまして?」
阿久津さんがお礼を述べてきた。照れ臭い。それに、一年生の時の数ヶ月しか見てなかったし私はあまり関わって無いけど…。
でも、嬉しい。
「満さんとの結婚生活も順調なようで…」
「まあ、ラブラブだからね」
「……」
満は照れ臭いのか携帯をいじり始めた。
「先生も満さんに感謝の気持ちを述べてあげてください。心待ちにしてますよ」
「…わかったよ」
パン子さんたちと別れ、家に帰る。
私は玄関で立ち止まった。そして、振り向く。
「満、ありがとう」
「な、なな、なんだよ急に」
「生徒たちに感化されちゃってさ。そういえば今まで生活してありがとうって言ってなかったなって思って」
「い、いいよ照れ臭い」
「こういうのは口に出したい」
ありがとう、大好き。
その言葉を口に出していけば明るくなれる。ごめんなさいよりもありがとうが好きだ、嫌いよりも好きが好きだ。
「大好きだよ。今でも」
「…俺もだよ。俺の方が大好き」
「ありがとう。これからもよろしくね。満さん」
「こ、こちらこそありがとう。長い付き合いでもこれをいうのは恥ずいな…。ふ、風呂入る」
顔を赤くしたのがばれたく無いのか満は風呂に閉じこもってしまった。
私はソファに寝転がる。
「ただいまー」
「たっだいまー!」
「おかえりー」
子供たちも部活から帰ってきたようだ。
子供たちもすくすくと元気に育っている。ここまで育てられたのは満のおかげでもある。
満は仕事で疲れていても育児とか手伝ってくれたからな。生涯通してもこんないい旦那はいないだろう。
「お母さん今日の晩ご飯は?」
「今日は焼肉行こうかなって思って」
「マジで!? 今から肉!? やったああああ!」
「匂いついちゃう〜。でも肉ぅ!」
「肉は正義だ!」
「それな!」
子供たちは元気だな…。
「ほら満。焼肉いくよ」
「…わかった」
満は風呂場から出てくる。風呂に入っていたわけでは無いらしく衣服のまま出てきた。
それを見て娘たちは笑う。
「父さんなんで髪濡れてないの。おっかしー」
「は、半身浴してたんだよ。ほら、いくんだろ」
「私が運転するよ。酒飲めないからね。満は飲むでしょ」
「助かるよ」
私は車の鍵を取り、駐車場へ向かう。
「それにしても今日焼肉ってなんかの記念日?」
「結婚記念日でもないでしょー? え、なんの記念日?」
「うーん、愛を誓った日?」
「ぶふっ…」
「満、汚い」
「わ、悪い」
満は顔を赤くしてそっぽ向いた。
私たちは一生お互いが好きなままでいられるだろう。夫婦だから。
私は意気揚々としながらハンドルを握った。
おしまい
こっちもおしまいっ!