満の謝罪
ある日、満がげっそりとして帰ってきた。
時間は朝の5時。朝帰りとはこれまた珍しいなーと思いつつどしたの?と声をかける。
満がげっそりとしてるのは朝帰りが怒られるとか思ってるのかな? 私はそんなこと気にしないし付き合いっていうのも大事、友人と呑んでたならまあ、友人付き合いも大事だよねーと。
それに、昨晩朝に帰ることになるっていう連絡はあったから怒ってはない。
「飲みすぎた? 吐く?」
「ち、違う…」
「違う? なにが?」
「その、すまない!」
と、満が頭を下げた。
私は頭の上にはてなを浮かばせる。謝る理由がわからない。
「美咲に無断で大学の友人に五十万近く貸してしまったんだ…!」
「あー、あー」
お金ね…。
まあ、裕福ではあるけど節制をしようと誓い合って破ったことに罪悪感か。
「俺も酔っ払っていたから正常な判断ができなかったんだ…」
「まあいいよ。友人なんでしょ?信じて貸したんならいいって」
「十中八九戻ってこないと思う。それでもか…?」
「いいのいいの。金は天下の回り物だしね。ただ、これっきりにしなよ?また貸してって言われて貸したら味をしめるからさ」
私自身特に怒るわけじゃない。
そりゃ無断で貸したのは良くないけど…。でも友人になら仕方ない。
いい勉強になったんじゃないかな。
「ま、いいさ。騙されたとしても。まだ頑張れば稼げる範囲だからね」
満も満で報告するのは偉いと思うんだ。
「あ、満、そういや満のためにこういうの買ってみた」
私が出すのはやまわさびというものだ。北海道で食べられているらしい。醤油漬けがご飯と合うらしい。
なんとなく興味が湧いたので取り寄せてみた。
「やまわさび…?」
「朝ごはんで食べようと思ってたんだけどどう?」
「た、食べる」
ということで私は朝ご飯の用意を済ませる。味噌汁は作ってあるし鮭も焼いた。
ご飯をよそい、テーブルに出す。私と満は席に座った。
「いただきます」
「いただきます…」
満は瓶の蓋を開け、やまわさびをご飯の上に乗せる。
私もご飯の上に乗せて、ご飯と食べる。あ、普通のワサビと違うんだ。なんていうか、合う。
「うおっ、くる…!」
「あはは。鼻にくるねー」
「涙出てきた。けど…うめー!」
「これは進むねご飯。これから各地のご飯のお供取り寄せてみようかな。食べ比べとかしたいよね」
「いいな! 俺奈良県のきざみ奈良漬っての食べてみたい」
「あー、あれね」
全国各地のご飯のお供ってたくさんあるからなぁ。夢が膨らむ。
ご飯のお供って最高に美味いんだよ…。マジでご飯が進むものばっかだから困る。今の私の悩みのタネは食べすぎって感じだ。
「それにしてもお腹もちょっとずつ大きくなってきたな。順調に育ってて何よりだ」
「あっ…」
「あって、なんかあったのか?」
「その、妊娠のことなんだけどさ…」
「どうした? ま、まさかっ…流産?」
「違う違う! 双子だって…」
「ふ、双子!? なんかいきなり双子はきついっつー話も聞くぞ!?」
「うん。でも産むよ。痛みには生憎慣れてるから」
私の過去のことを思い出す。
確実にあの時よりは強くなってるはずだ。だから気張ってこう!
「…双子ならまだ名前を考えなくてはならないな」
「…気が早いけどね」