自分はちがう
先に言っておくと重い話じゃないです。決して。
私は育児の本を読んでいた。
ある項目に目を惹かれる。
「出産すると…胸がちょっと大きくなる!?」
どうやら12週くらいで大きくなるらしい。今週で12週を迎える。赤ちゃんも大きくなってきていてちょっとお腹が膨らんでいる。
が、胸は膨らんでない…。
……この本嘘ついてるのか?
「…おっぱい」
私は胸に手を当てる。
膨らんでない。いやいやいや、多分これは偽りの姿。本来の姿は膨らんでるはずなのだ。私は知らないうちに体の体型を誤認させる異能力に目覚めているらしい。
だからきっといつか異能力がとけて胸も大きくなる。きっと。うん。
出産するとおっぱいが大きくなるっていうし!
「妊娠したら貧乳の壁がなくなる!」
「なにバカなこと言ってんだよ…。妊娠しても胸が大きくならない人もいるんだぞ…。それに、授乳期間が終わったらまた胸がなくなるって…」
「……」
私は満の上に乗っかる。
こいつは言ってはならないことをいってしまった。寝ぼけて言ってしまった自分の失言に気づいたのか、冷や汗をかいてこちらを見てくる。
「あ、いや、ごめん。寝ぼけてた」
「…貧乳とバカにしたものとだけは戦わざるを得ないッ!」
「に、妊婦がそう暴れ…」
私は満の鳩尾をぶん殴った。
満は鳩尾をおさえ、うずくまる。私は壁の隅に体育座りをして床を見ていた。そういう事実は知りたくなかったんだ…。
授乳期間が終わったらおっぱいがなくなるって…。無料お試し期間かよ…。
珠洲も、地衣も恵まれてるもんな…。私だけにない…。
城ケ崎 美咲は、自分のこの「貧乳」を見る時、いつも思い出す。
『美咲、美咲のおっぱいは全く大きくなろうとしません。そう、嫌われているというより、まったく大きくなろうとしないのです。自分自身としてとても心配です』
『それが…恥ずかしいことですが…自分である…わたしにも…なにが原因なのか…』
子供の時から思っていた。学生生活を送っていると、それはたくさんの人と出会う。
しかし、貧乳じゃない人たちは一生で真に貧乳の人が、一体何人いるのだろうか…?
幼馴染の珠洲はおっぱいがでかい。
Eカップだろうか? Fカップぐらいだろうか?
「おーい、ごめんって…。そこでうずくまらないでって…」
「自分にはきっと一生、誰ひとりとして現れないだろう。なぜなら、この『貧乳』の友達は誰もいないのだから…。巨乳の人間と真に気持ちがかようはずがない」
「花京院!?」
「どうせ私は…」
「お、おーい。悪かったよ。なんか買ってあげるから許してくれ…」
と、昼の11時になった。
私は立ちあがり、キッチンに立つ。そうだ、牛さんになるように牛乳料理を作ろう! シチューに、グラタンに…。
「お、おい。たまには俺が作るから…。その、ごめんなさい!」
と、満が土下座してきたのだった。
しょうがないので許してあげた。
たいして重くもない話だし美咲の胸も重くないからダブルミーニングな前書き