真綾の怒り
控室に私たちは行くと、まだ怒っている様子の真綾がいた。
「ま、真綾さん! どうしたんですか!?」
「安部。いや、なんでも…。で、あんたその怪我…」
真綾は安部に近づき、頭を触る。
頭に触れられたら安部はいっ…という痛そうな声を漏らした。その声で反射的に真綾は手を離す。安部が頭に巻いている包帯は若干血がにじんでいた。
「この傷はですね、今日殴られたんですよ。式場に来る前に…。因果応報ってやつですかね…」
「あんたはもう罪償って反省もしてるでしょ。誰に殴られた?」
「え、あ、名前はわからないんですけど女の人にハンマーかなんかで…」
真綾は不機嫌そうに椅子に座り、爪を噛んでいる。
「ごめん。それたぶん私らのせい」
「え?」
「あの女が式に参加できたのはあんたの招待状を奪ったからなんだね。あー、ムカつく。邪魔しやがってくそが…」
「真綾ちゃん。もうそこまで」
真野ちゃんが真綾の爪噛みを止めた。真綾の爪はかじられてボロボロになっており、少しだけ血が出ていた。
彼女は何をしたかったんだろう。あの旦那が虐待するとは到底思えない。だからあれは彼女自身がしていた虐待とみて間違いないんだけど…。
「…あ、あの真綾さん。私の事は気にしないで…。これも昔自分がしでかしたことだと思えば…」
「それとこれとは関係ないでしょ。あんたはこの件に何も関係ないんだから。それで殴られて許せるの? 違うでしょ。昔の事もう引きずるな。あんたはとりあえずあの女を傷害罪で起訴すること。そうしてほしい」
「えっ、あっ、はい!」
「美咲、妊婦を使うようで申し訳ないけど海未ちゃんの相手をしてあげて。私は夫と一緒にあの女と決着をつけてくる」
と、真綾はウエディングドレスのママ控室を出ていく。
そして数分後、呼んだぁ?と可愛い声で扉を開けて海未ちゃんがやってきた。
☆ ★ ☆ ★
旦那が隣に座り、目の前には女が座っている。
私は怒りを抑えつつ、女を見る。
「どうしてこんなことをした。説明して」
「…あんただけが幸せになるのが許せなかったのよ! 私の時はこんな高級ホテルでやらなかったじゃない! なんで!? 私に金かけるのが嫌だったの!?」
「…はぁ。ここの結婚式の費用出してるのは大幅私。私はこいつより稼いでるから」
「否定できない…」
夫も多少出してくれているが出しているのは私。
「それに、結婚式の費用全部男に出させるというのがわからない。あんた自身金出さないんだから文句言えないでしょ」
「ま、真綾さん…」
「それに、あんた浮気して出て言った挙句慰謝料も踏み倒してるそうだね。そんなクズな女に出せる金があると思う? そんなクズなあんたに幸せになる権利があるとまだ思ってる?」
私がそういうと、女は泣き始めた。
「泣いたら解決するわけじゃない。泣くんじゃないよみっともない。悪いのは全面的にあんたで、被害者づらするのはバカでしょ」
私がそこまで言うと女は逆上して掴みかかってくる。
私はその掴んだ手を払う。そして、そのまま組み伏せた。
「浮気相手にも逃げられて自分は幸せじゃなくなったからこっちが幸せになるの許せないんでしょ? あんたの事情に私らを巻き込まないで欲しいんだけど」
「うるさい!」
「あんたがどう恨もうと私らは幸せになるんだよ。このことは慰謝料も請求してやるし、実刑もつくでしょ。なんせ、暴力も振るってるんだから」
「私はっ…」
「おっと、言い逃れするなよ。安部を殴った凶器が見つかればあんたは終わりなんだよ? 少しは立場を理解してほしいんだけど」
地面に顔を押し付けられている。
私は彼女から携帯を拝借し、彼女の前に差し出す。
「ほら、親よびなよ。助けを呼びな。このことを一から説明してあげるから」
「い、いやっ…」
「拒否できる権利はあんたにないよ?」
「う、うわああああ!」
と、女は逃げ出そうとして、扉に向かうが扉は夫が抑えた。
どきなさいよ! と夫を殴っている。が、夫は退く気はまったくないようだ。むしろ温厚で誠実なはずの旦那がごみを見るような冷たい目で見ている。
「真綾、訴えるのはなしにしてくれないか」
「…なにするの?」
「俺も犯罪を犯す。見てみぬふりをしろ」
「わかった」
夫は女の髪を掴む。
そして、そのまま地面に思い切り打ち付けていたのだった。地面に思い切り顔面をぶつけられた女の顔からは鼻血が出ており、ひい!?と夫に向ける視線が恐怖に変わっていた。
「結婚してるとき、ネグレクトを行うだけならまだしも虐待まで行っているんだ。お前も人様に殴られる痛みを知ってもらいたいんだが」
「ひいいい!? こないでえ! 許して!」
「許して? あんたは海未がそういっても許してあげたのか?」
「ストップ。彼女の前歯が折れてる。これ以上やるとこっちが悪くなる」
「…わかった」
「さてと。じゃ、具体的な慰謝料請求の話もしようか。あんたは安部に治療費を慰謝料を渡すこと、海未ちゃんにした虐待の慰謝料を払うこと。いいね?」
「は、はい!」
「あんたの前歯を折ったのは悪いと思ってるから式を滅茶苦茶にした分の慰謝料は取らないでおいてあげる。これが私らからできる最後の恩情だ。詳しい話は後日弁護士通してやろうか。夜逃げはさせないように見張りを立てておくからね」
といって私たちは部屋を後にして披露宴会場に向かうのだった。
披露宴会場では、真野ちゃんと海未ちゃん、そして美咲が即興の演劇をやっていた。演目はロミオとジュリエットらしく、真野ちゃんの本格的なロミオの演技とお姫様ジュリエットの海未ちゃん。ナレーションの美咲。
会場は大いに盛り上がっていた。
「さ、行こうか。私のジュリエット」
「え、このノリに参加するの? しょうがないな。ロミオ」
私は夫に手を引かれ、その演目の邪魔をした。
「邪魔しないで―!」
「あはは。ごめんごめん。お母さん参加したくなってさ」
「お父さんもな」
「じゅ、ジュリエットは私だからね!」
とりあえず、一件落着。