壊される結婚式
私は結婚式に参列していた。
久しぶりにドレスを羽織っている。無論TPOはわきまえて薄い青のドレス。
で、誰の結婚式化というと、珠洲…ではない。残念ながら珠洲の結婚式は当分先で、今回は女島 真綾…。もとい、中村 真綾の結婚式だ。
五年ぐらい付き合って、ようやくプロポーズされたらしく、私に報告してきた時はちょっと嬉しそうな声音だった。
「ありがと。来てくれて」
と、真っ白いウエディングドレスを着てモデルの時とは違ったメイクをしている真綾が私たちに挨拶をしてきた。
「ねえ、真綾。あそこの人ちょっと行動気になるから注意して」
「あの女の人? たしかに時折こっちにらみつけてくるね」
「うん。きっとなにかしでかすとおもうから冷静にね…」
「わかった。ありがと」
あの人が気になる。
A2Oやっていたせいか観察する癖がついちゃったらしく、なんていうか怪しいなーと思うようになってきた。
あの人は真綾の知り合いじゃなさそうだし旦那の知り合いだろうけど…。
「こんにちは」
と、旦那さんも挨拶に来た。
「ホントにありがとうございます…。ほら、海未。挨拶しなさい」
「あ、ありがとーござます」
「かわいー。そういやバツイチなんだっけ?」
「ええ。お恥ずかしながら…。前の妻を満足させてあげられなかったみたいで浮気して逃げられました…」
「親権を男親がとったって珍しいな…」
世の中は男性に厳しく女性に甘い。こういう場合何かない限り親権は女の方に渡る確率が高いんだけど…。
「妻が育児放棄してたので俺が引き取ることにしたんです」
「そうなんですか。あと、一つ。あそこにいる女性はあなたの知り合い?」
私は睨みつけてくる彼女を指さした。
旦那がその女の人を見ると、顔を青ざめさせていく。なぜここにと呟いていた。
「ま、前の妻、です。招待状出してないはずなのに…」
「ああ、前の奥さんね。はぁ」
「どうにかしてよ…。めっちゃ挙動不審で今にも何かやらかしそうですから」
と、司会者が余興をやると言い出した。
そして、その妖しい女の人が立ち上がり、ステージに立つ。そして、旦那のほうを向いてにやりと笑った。
やばい…! なにか、始まる…!
「えー、旦那の康人さんの前の妻の紀子ですぅ。旦那が最低な人と伝えたくてここにやってまいりましたぁ」
といって、会場が暗くなり、そして、プロジェクターにある画像が張られていた。それは海未ちゃんで、青いあざが肩や腹部にある。それに、たばこで焼かれた後があった。
会場にいた人たちはざわついている。視線は画像と旦那の方に寄せられていた。
「俺はこんなことしてない!」
「あら、私自身悪者にしてるみたいだけどそうじゃないでしょ? あなたがこの子を怖がらせているのよ!」
と、甲高く叫ぶ。
すると、新婦である真綾が壇上に上がった。
「おい、ふざけんな」
と、胸倉をつかみ、にらみつけていた。
「旦那はたばこなんか吸わねーんだよ。喘息もってるんだ。吸うわけねーだろ。同棲していてカバンの中からも家の中からもたばこの箱や吸い殻なんてでてきたことねーんだぞ。自分が虐待していたことを旦那に押し付けんじゃねえボケ」
と、低い声音で怒りをぶつけていた。
「それにじゃあなんで虐待されてるはずの海未ちゃんが旦那に懐いてんだ? 説明してみろ」
「ひい!?」
「私たちの結婚式をぶち壊そうったってそうはいかねーぞ。おい」
「ご、ごめんなさい」
「謝ってすむわけねーだろ! ああ!?」
真綾はとても激昂していた。
「そんな根も葉もないものをみせて私らの幸せを壊すんじゃねえ!」
真綾とその前の妻さんをホテルの人が引き離していた。そして、別室に連れていかれる。
旦那さんがマイクを手に取った。
「みなさん、お騒がせしてすいません。先ほど虐待の画像を上げていたのは私の前の妻であります。私は虐待などしておらず、すべては前の妻のでっちあげです。誠に申し訳ございませんでした」
と、頭を下げて謝っていた。
「嫌な予感当たっちゃったね美咲ちゃん…」
「そうですね…。嫌な予感ほどあたるんですよね」
「あはは…。本人たちにとってはぶち壊されちゃったね」
「女って怖い…」
何を思ってあんなことをしたんだろうか。
いや、なんとなくわかる気はする。自分は幸せになってないのに旦那が幸せになることが許せないのかもしれないな…。
でも、招待状もなしでどうやってきたんだろう。偽造?
と、するとまた扉が開かれる。
現れたのは頭に包帯を巻いた女性。その女性は見たことがあった。真綾が入院するきっかけとなった安部 優奈…。その人だった。
「安部ちゃん?」
「あ、真野ちゃんと広瀬さん。ほんとに昔はすいませんでした」
「いや、それはいいけどどうしたのその怪我」
「いえ、今日来るときですね、殴られたんですよ。頭を…。一応何針か縫って入院するという話もあったんですけど真綾さんの結婚式来たくて来ちゃいました」
「殴られた?」
「ええ。結婚式の招待状も奪われたんですけどなんていうか騒ぎがあったみたいで来れました」
私と真野ちゃんはお互いを見る。
「なるほど、安部ちゃんのを奪って参加したんだ…」
「ほんとに救いようがないですね…」
「え? あれ、そういえば真綾さんは?」
「んー、ま、なんつーか、今は近づかないほうがいいって感じかな」
「え?」
訳が分からなそうにしている安部さん。
「殴られた人を見た?」
「えっと、一応は…」
「覚えてる?」
「はい」
「そう。じゃ、話しが早いね」
復讐というか、ぶっ壊すためだけに犯罪まで犯すってわけがわからないなぁ…。