珠洲への説得
私は机に向かってペンを走らせていた。
というのも、あのバカみたいな感じで結婚を決めた……。いや、バカ見たいっていうのは失礼かもしれないけど…ほんとにバカだと思う。
段階を踏み外してる気がしなくもないが…。まあ、結婚するのは喜ばしいことだと思うので喜んで書こう。
「っていっても私相手の事なんも知らねーんだよな…」
珠洲の友達だから珠洲の事を多く書くのは当たり前だけど……。
いきなり現れて結婚します、っていって見ず知らずの奴と結婚……。なんつーか、ほんとに馬鹿っていうか。絶対その場の勢いで決めた感じがする。
浮気…は珠洲はしないだろうけど、相手がどうか……。相手とほとんど話したことないからなぁ。
「とりあえず諭してみるか…。結婚を考えるのはまだ早い気がするし」
私は珠洲に電話を入れた。
「もしもーし」
『なーにー?』
「結婚相手の事だけどさ」
『どうかしたの?』
「いきなり結婚するんじゃなくて結婚を前提としたお付き合いをして少し結婚式まで待ったほうがいいよ。会っていきなりすぐ結婚!って馬鹿でもしないよ」
『そ、そう? 彼が結婚しようって言ったからしようっていったけど……。い、いつぐらいがいいのかな』
「そりゃ好きなタイミングに任せるけどさ、この人絶対信頼できるなって思ったときにやったほうがいいよ。出会ってすぐはダメだって」
私がそういうと少し落ち込んだような声にはなったもののわかったみたいだ。
「こういうのは段階があるの。いきなり即結婚はほんとにやめて…。私だってスピーチなんだから多少なりとも相手のことを書きたいしどんな人かも判断できてないからさ」
『う、うん。ごめん。彼にも話してみる』
といって電話を置いてどこかにいった。
そして、電話に出たのはあの時の男の声。
『あ、あのー、も、申し訳ございませんでした……』
「いや、いいけどさ……」
『結婚を前提にお付き合いして、そしてまたプロポーズします…。友人にもちょっと怒られて…はい…常識がなかったなって…』
「いや、結婚っていうのは当人間の問題だし口出しする権利は私たちには本当はないんだけどね? でもやっぱりいきなり結婚はないわって思っただけだよ。そんな深く考えないで、数か月付き合ってまだ好きでいられるなら本当の好きだと思うし、なんか違うって思ったら違うんだよ。合コンとかは酒が入るんだから酒の勢いっていうのもあるからさ」
『はい…』
「私からは終わり。ま、結婚には大賛成だから数か月後楽しみにしてるよ」
私はそういって電話を切った。
これでわかってくれたならいいんだけどさ……。どうなんだろ。不安だなぁ。珠洲は私の言ったことは従うけど、バカだからなぁ……。
珠洲は出会ってすぐ結婚しようとして、こっちは出会って結構たって結婚して。なんか対照的だなぁとは思ってはいる。私と満がどっちもヘタレっていうのもあるけど。
「さーてとー。そろそろ満が帰ってくるころだし出迎えてあげますかねー」
私は玄関先に行くと満が扉を開いた。
「あれ? 起きてたの? 寝ててよかったのに」
「いや、さっきまで珠洲と電話してたからさ」
「そうなんだ」
「とりあえずビール飲む?」
「明日朝早いからいいや…」
「そう? じゃ、もう寝る感じ?」
「とりあえず汗を洗い流してから」
そのまま満はシャワー室に入っていって……。
「ああっ!?」
「どうしたの!?」
「スーツのまま浴びちゃった…」
「馬鹿だ…」
やらかした。