教え子が怖い…
私は喫茶店でその女の子と話し合いをしていた。隣には満を添えて。
「要するにその女性の心をずったんずったんにへし折ればいいんですね?」
「や、やりすぎない程度にね」
「いいですよ。広瀬先生の頼みですし。んじゃ、まずその元カノさんここに呼べますか?」
「わ、わかった」
と、彼女は淡々と進めていく。
満は元カノを呼び出すと、数十分してメイクをした元カノがこちらにきた。私を睨んできて、そして図々しくもどきなさいよと私に言ってきて満の隣に座る。
で、まずパン子さんから最初のストレートが飛んできた。
「で、あなたはどこの民族の方ですか」
「はあ?」
笑顔でそう述べるパン子。満は笑いだしそうになっていた。
「見たところ日本の方じゃないようなので……。とりあえず英語で喋りますね」
「に、日本人よ!」
「日本人はそんなナチュラルじゃないメイクを好むとは知りませんでしたよ。誰からどう見たってあれですよ。ここは喫茶店です。キャバクラと間違えてませんか?」
よくもまあそこまで攻めれるものだ。
ちょっと感心してしまう。
「あ、あんたはいったい誰なのよ! この女の連れ子ね!」
「ああ、いえ、満さんの姪ですが」
さらっと嘘をついた。
「なんで姪っ子がこんなとこにいんのよ! 見たところ高校生ね? ガキは帰りなさい。今から大人の時間だから」
「大人の時間、大人の時間ねぇ。そういうこと、あくまでも公共の場である喫茶店で言うのはどうかと思いますよ。モラルを疑います。そんなことガキである私もわかってるのにあなたはわからないんですね。あなたがちゃんと常識を弁えた人ならこの人を追い出してでも嫁にさせようと思ってたんですが」
パン子ちゃん冷静だなぁ……。
「あんた! 生意気なッ……」
と、元カノが胸倉をつかむ。
私は止めようとしたが、パン子ちゃんは私を手で止め、にやりと笑う。なんか企んでいるのだろうか。ちょっと怖いんだけど……。
「まあまあ落ち着いてくださいアヒルの子さん」
「ぶふっ……」
「こんの……!」
と、元カノが殴りかかろうとしていたので止めようとしたがもう遅かった。パン子ちゃんの左頬に強烈なストレートパンチが決まる。
パン子ちゃんは椅子から転げ落ち、周りの目がこちらに向いた。
「花野……」
「あっ、いやっ、これは…こ、この女がいけないのよ! この女が私を侮辱するから! 名誉棄損で訴えて……」
「の前に、捕まるのは君のようだね」
と、背後からおじさんが女の手を掴む。
「だ、誰よあんた! せ、セクハラよ!」
「眠ちゃんから頼まれてこの店でコーヒーしてたら……。まったく、無茶なことをする子だ。私はこういうもんだ。ほら、現行犯逮捕な。白露、証拠はとったか?」
「ばっちし携帯に撮れてるぞ父さん」
「よし」
白露の父さんが警察手帳を見せつけると、元カノの顔は青ざめていく。
「暴行罪。たしかに眠ちゃんがしたことは名誉棄損に当たるが、それ以前に君の方が悪いと言われるだろうさ。手を出したのは悪手だったな、お嬢さん」
「あ、ああっ……」
「警察沙汰にまでする気はなかったんですよー? もしもの時の為に友人にお願いしてただけでー。でも、手を出したそちらが悪いんですからね? 会社での立場、どうなるんですかね」
「や、やめて! 謝るから! 許して! 金輪際近づかないからっ!」
「あ、被害届出しますね~」
パン子ちゃんは笑顔だった。
縋りつくように満の方を見たが、満は首を振った。私の方も見てきたが、首を振る。
「ちなみに、あまりにもねちっこいようならあなたの実家にも電話いれるんで! あなたの実家、聞いたことありますよ。なにやら後ろめたいことをしてるとか」
「ひいっ!?」
なんでそんなことまで知ってるんだろう。
「……実家にも余罪がありそうだがまあいい。ほら、来なさい」
と、元カノは連れられて行った。
私たちはほっとして周りに頭を下げる。そして会計をして出ていくことにした。
「パン子ちゃんこうするつもりだったの?」
「まあ、一高校生の私じゃどうにでもできないですから国家権力を、ね。持つべきものは人望です」
「そ、それより彼女の実家が後ろめたいことをしてるってよくわかったな」
「ん? ああ、あれ嘘ですよ。あんなことをいって全部知ってんだぞって思いこませておけばそう簡単に報復に来ないでしょ。あの反応を見る限り本当にしてるんでしょうけど」
と、パン子ちゃんは笑っていた。
「それに、本当にしてなくても疑心暗鬼にはなると思いますよ。何も知らないから本当はしてるんじゃないか、とか。ま、親に確認取ればすぐわかると思いますしそういうことしない親って大抵いいやつですからどちらにせよ怒られますよね」
よく考えてるなぁ……。
絶対敵に回したくはないよ。
「今日はありがとね」
「いえー。では、私これから病院に行きますので」
「どうして?」
「診断書もらって慰謝料でも貰いますよ。よければついでに満さんの分も請求できるならしときますけどどうします?」
「いや、いいよ。あの女の人が近づいてこなくなるだけでいいから」
私たちはパン子さんにお茶を奢り、そして家に帰るのだった。