満の元カノの話
夫がどこからかチョコを取り出していた。
「ねぇ、そのチョコだれから?」
「職場の同僚からだよ」
というが。
「そのチョコ、誰からもらったの?」
「女性からだね」
「元カノって同じ職場だよね?」
「そうだね」
「もう一つ質問いいかな……。その元カノって、よくマドレーヌ、作ってたよね」
「……君のような勘のいい妻は嫌いだよ」
と、演技で睨んでくる。
元カノの話は聞いていたし、ろくでもない奴と聞いていた。が、まさかまだ旦那に未練があるとは思わなんだ。
「俺が要らねえっていっても作ってくるんだよ。あいつから浮気しておいてさ……」
「ま、満は捨てることできなさそうだもんね。ホワイトデーにお返ししないとまた家に来るんじゃない? さすがにこの場所は来れないと思うけど」
去年それでひどい目に遭ったのだ。
ホワイトデー当日、お返し頂戴とわざわざ満の家にまで来たのだ。そして私と鉢合わせして私とバトルが勃発。さすがは私というか、体育の先生なので運動神経などは抜群によく、返り討ちにした。すると相手は泣き出して、近所さんがこちらを見てきたのだった。
「大学時代から付き合ってた彼女があそこまでだとは思わなかったよ。俺に未練があるから同じ職場にまで来やがって……」
「優秀では、あるからねぇ」
あとそれなりに見た目もいいし。
毎年毎年懲りないもんだ。そのマドレーヌ私も見飽きたし、ところどころ焦げてるじゃんかよ……。旦那を想うんなら焦げたものをよこすなって……。
「満も満で毎年受け取るなんて律儀すぎるよ」
「いや、受け取らないと喚かれるんだよ……」
「それはそれで迷惑だなおい」
満に限って浮気はしないと思うけど……。
「あいつ、大学卒業と同時に間男からふられてさ、今だに彼氏いないから俺に養ってもらおうと考えてるらしいんだよ。マジで怖い……。美咲、同じ女としてどうにかならないかな」
「どうにかならないと思うけど……。でも、どうにかできそうな人なら心当たりがあるような……」
「まじ?」
「ただ、まだ高校生だからこういう大人の事情に巻き込みたくないんだよ……」
私はあの子を思い出す。
きっとどうにかしてくれそうな気はするけど……。でもこれは私の家庭の事情だし、巻き込んでいいものか……。
「頼む! 俺も辟易としてるんだ! その子に頼んでくれ! 俺じゃどうにもできん!」
「はいはい……。じゃ、今から連絡入れてみるよ……」
私はその子に電話を入れる。
スピーカーにしつつ、私は冷蔵庫からチョコを取り出した。
「ん、これ満。バレンタインの」
「ありがとう! 美味そうだ。ビターだよな」
「もちろん」
「好みわかってるぅ!」
と、嬉しそうに食べ始めた時に、彼女につながった。
ちょーっと早いですがバレンタインのお話。
時系列で言うと二月十四日のお話です。