幸せを感じるとき
私は塩辛をテーブルに置いた。
「かーっ! うまい! やっぱ美咲の作るご飯のほうがおいしい!」
「おつかれ。どんどん飲みなよ」
私はおつまみを作り、満が酒を飲みつつつまむ。
満はおつまみにも文句を言わないし、家事も手伝ってくれるのですごく助かっている。夫婦関係は至って良好だ。
「なんかごめんな。俺だけ酒飲んじゃって」
「いいよ。私酒飲めないし。それに、作るのも楽しいから」
「……神林はほんと逃がした魚は大きいよなぁ」
「神林……?」
危ない。危うく神林君のことを忘れかけていた。
なんかどうでもいい存在に変わってきているような気がする。満の友人なのに忘れるとはダメだな私は。
「……さすがに神林が可哀想だぞ」
「ご、ごめん」
「本人はあれでも高校時代めちゃくちゃ努力してたんだからな」
努力してたのはなんとなくわかったけどそれが空回りしているっていう感じだったような気がする。
なんていうか、努力の方向性がちょっとずれてるって感じ?
「俺は高校の時は美咲とは単なる友人関係だとしか思ってなかったのにな」
「私もだよ。生きてくにつれなんか考えが変わってくよね」
「ああ。俺もなんか夢みたいだよ。これでも美咲クラスの中で結構人気があったんだぜ?」
満が酔っているのかそういうことをいってくる。
「またまた御冗談をー。私がそんなわけないでしょって。ほとんど根暗だったし一年生の頃を知ってた人いたらたぶんひどいと思ってるよ私のこと」
「そうでもないぞ。男子も結構好きだと言ってたからな。にじみ出る家庭的な面と、何といっても可愛いところが」
「か、可愛いって……そんな真正面で褒められると照れる」
私はジュースを一気飲みした。
私はちょっと照れ臭いのでまたおつまみを作ることにした。揚げ出し豆腐。なんか、結構豆腐って好きなのね。揚げ出し豆腐とかは結構好き。付き合いで居酒屋行くと結構な頻度で頼むほど。
「満、酒も回らないうちに風呂入ってきたら? おつまみもちょっと時間かかるし」
「ん、そうさせてもらうよ。今日は何から何までしてもらってごめんな」
「別に好きでやってることだからいいよ。ちょっと楽しいし」
こういう何気ない日常が、幸せだと感じる。
満と一緒にいられて、好きなことができて。とても幸せだった。幸せな気分だ。私はネギを刻みながら鼻歌を歌っていると、風呂場の方から大きい音が聞こえる。
私は急いで駆け付けると、満が転んだようで上半身裸でこちらに苦笑いを浮かべてごめんと謝ってきた。
「だいじょぶ?」
「な、なんとか……。飲む前に入っておくべきだったよ」
「今度からそうしよっか……」
「なんか、ごめんね」
満の状態から察するにズボンを脱ごうとしてふらついて転んだんだろう。酒が回ってきたのかふらつくのだろうか。
「あ、やべ、火をつけたままだ」
私は急いでキッチンに戻り、料理を再開する。
幸せだなぁ……。