引っ越しました
私の目の前には超高級マンションがあった。
「え、マジでここに住むの?」
「うん。年収も安定してきたしもっといいところ住みたいなって相談したら定年まで辞めないということで家賃の半分を負担してくれるらしくて……ここを紹介されたんだ」
「え、ええ……」
見ただけで高そうなマンション。物理的にも値段的にも。
カードキーを渡されたときからちょっとおかしいと思っていたが、まさかここだとは思っていなかった。私の友達もだれも住んでいない。
私たちは恐る恐る中に入っていくのだった。最低限の荷物は既に運び入れているらしく、私たちはエレベーターに乗り込んだ。
「何階なの? まさか最上階……なわけないもんね。さすがにそこまではないか」
「いや、百階、らしい」
「ふぇ!?」
エレベーターは昇っていく。
振動もないので、後ろを見なければ動いてると思えない。ものすごく高性能なエレベーター。最上階につき、カードキーに書かれた部屋番号のところについた。
カードキーを差し込むと、ドアのかぎが開いたのだった。
「う、うっわぁ……」
「なんとなく予想はしていたが、予想以上だな……」
「マジでいいの? これ……」
「なんつーか、最上階は二部屋しかないってことでめちゃくちゃ広いな……」
ここは私たちみたいな庶民じゃなく、超セレブの人が使うほうがいい気がするが。
別にこういうところじゃなくて普通のマンションでもよかった。が、私はその部屋のとりこになってしまった。
まず、洗濯しなくていいということ。金はかかるが洗濯してくれるサービスがあるようなのでそれを利用することにする。復職した場合でも洗濯してくれるって言うのは楽だ。
「何この家電! めっちゃ最新型じゃん! 欲しかった奴だよ! 料理の幅が広がるなぁ!」
「テレビもでけえな。そして、薄い!」
「お風呂すごい! しかもこのマンションが運営する温泉施設は無料で使用できるだって! 気前いい! パーティルーム、フィットネスジム、洗濯サービスにゴミ出しサービス。こりゃわかるよ金かかる理由!」
「お、俺運転手になってよかった! 給料も格段にあがったしな! その代わり時間外に呼び出されることもあるらしいし、出張にはほとんどついていくらしいけど……」
「ま、仕方ないよ。社長専属の運転手ってことだから」
社長専属っていうことなので給料はめちゃくちゃよかった。
「社長専属になってなかったら絶対にこの家の家賃払えてない! そもそも、元の家賃が俺の年収だったしな」
「も、元の家賃? こ、怖いけど聞いてみるね。いくら?」
「八百万らしい」
「はっ……。い、今の年収はいくらくらいになる?」
「ざっと二億四千万くらいになる、らしい」
プロ野球選手かよ……。
まじで給料が格段に上がったな。月収だけでも二千万……。生活には絶対困らないし四百万が減るとしても使えるのは千六百万……。
マジでそれだけの給料を払えるって阿久津家やばすぎない? 規模が違いすぎて怖くなってきた……。
「え、偉く出世したね……」
「ま、まぁ俺の立場だと系列会社の社長よりは偉い立場らしいから……」
「一番トップが阿久津家の当主で?」
「に、二番目が俺……」
「ふぁー……」
言葉が出ない。
出世してほしかったとはいえ出世しすぎだろまだ私たち若造だぞ? 29だぞ? アラサーだぞ? それなのにこんな給料っていいんですか? いや、わりとマジで汗が出てきた。
「年収とか関係ない。俺たちは無駄遣いしないようにしよう」
「そ、そうだね。今までの生活崩すわけにはいかないからね。で、でもたまの贅沢なら許してくれる?」
「もちろん! ご、ご褒美は必要だからな……。ば、場所が変わっただけだからつつましく、な。うん。無駄遣いするともしもリストラされたときとか金ないってなると困るからな。絶対に持ち出さないこと。いや、美咲なら大丈夫だってわかってるんだが人間大金を目の前にするとどうも、な」
「金に目がくらんで欲深になるからねえ」
私たちはそう握手を交わし、まず挨拶に行くことにした。つっても住人全部は無理そうだけど……。