披露宴
結婚式はつつがなく終わり、披露宴。
そこで俺は目にしたことのない人を目にした。
「しゃ、社長っ……!」
「どうも、結婚おめでとう」
「い、いい、いえ! こんな一平社員の結婚式に参加していただき誠に恐悦至極で……」
「あまりこういうのには参加しないんだけど、娘の先生っていうからお世話になってるし参加しようとね。ご祝儀は奮発させてもらったよ」
「は、はいい!」
なんだろう。
ものすごく人が好さそうだ。上の人はあまり下に関わらないイメージがあったんだけど、この人は関わっていそうな気はする。
信頼できる気がした。
「広瀬先生。いや、城ケ崎先生。これからも娘と一緒にゲームしてやってください」
「ええ。もちろんです」
「私もやりたいんだがね、娘が父さんと一緒にやりたくないっていうんだ……」
「だって恥ずかしいもの」
隣には娘さんと思われる人がいた。
その娘さんは俺をじろじろと眺めてくる。
「先生の婿さん……。誠実そうな顔してるわね」
「もう、月乃さん。あまり人の旦那をじろじろみない」
「す、すいません。広瀬先生の結婚相手が気になってあいつらにも調べて来いって言われてるんで……」
なに、あいつらって。
俺は美咲を見ると美咲は目をそらした。たしかに俺が生徒の立場なら結婚しそうに思えない美咲の結婚相手が気になるけど……。
「先生。改めて結婚おめでとうございます。城ケ崎さんと言いましたか? これからもうちの会社でよろしくお願いします」
「は、はい!」
「もう、こんな小娘に敬語はいいですよ。私は年下なんでフレンドリーな感じでも」
「そういうわけには!」
上には立場が弱い。
もちろんこういうのは本当にフレンドリーにしたらまずいのだ。いわゆる社交辞令というやつで、礼儀というものを心得なければいけない。
一応これでもいい業績は残している現代社会に生きるサラリーマン。そういったスキルは身につけた。
「君は若手社員の中でも一番成績を残していると聞く。どうだ? 出世に興味はないか?」
「あ、あります! ですが、こういうのはなんか違う気がするんですが……」
「私としても広瀬先生は高く買っていてね。広瀬先生自体侮れない伝手があるからね」
「伝手って……」
「そんなものないですよ。全員友達ですから」
「彼女自体の人の好さがここまでひきつけるのかもしれないが……。彼女は運がいい。とてつもなく」
それは前に聞いたことがある。
彼女自体運がいいらしい。いや、幸運にあやかりたいがために結婚したわけじゃないけれど。
「広瀬先生の為に出世はしないかい?」
「出世……」
「私、じつは免許を持っていないんだよ。取りたかったんだが、こういう立場にいて事故を起こすと厄介なんだ……。もちろん、私でなくてもだけど」
「は、はぁ」
「で、私の車を運転する人がこの前歳でやめちゃって。今探してるんだ」
「まさか……」
「どうだい? 専属の運転手になる気はないか?」
まさかの持ちかけ。
断る理由がないが……。俺は横の美咲を見るとにっこりと笑っている。受けてもいいよっていうことだった。
「わ、わかりました……」
「いきなりの大出世で困るだろうし、私が乗る車は想像つかないだろう? あらかじめ言っておくと普通の車だから。高級車でもなんでもないし自分の家の車を運転するつもりでいいよ」
「といわれましても……。こんな若造でいいんですか? もっとベテランにやらせるべきなのでは……」
「ベテランだと歳をとっているだろう? またすぐに探さなくてはいけなくなるかもしれない。こういうのは勉強のためと思って若手にやろそうって前々から思ってたんだ」
なるほど。ピックアップされたのが俺、と。
なんか複雑な気持ちだ。
「結婚式でする話ではなかったな。詳細はまた後日」
といって去っていった。
しゃ、社長の考えわかんねー。
たまに更新するけど城ケ崎くんの仕事生活とか美咲の日常生活、子育てくらいしか書かないと思います。