結婚直前の飲み会 ①
夜の六時、学校に残り体育館で体を動かしていた。
明日、結婚式だ。長く付き合っていた彼氏とやっとこさ入籍する。そんなこともあり、いつもより高ぶっている私の感情。
「そろそろ帰るか……」
彼の仕事も休みすぎだろうしな。
育児はしばらくあちらの実家のほうに任せていたけれど、私の仕事も踏ん張りが付いたので、明日から育児休暇に入る。
先生として復職するのはいつになるだろうか。パン子ちゃんたちが卒業した後になるかもしれない。いや、保育園に預ければ問題はないか。寂しい思いをさせるだろうけど……。
「ん、電話か」
携帯が振動していた。
携帯を覗き込むと、中村真綾という名前が表示されている。こんな夜遅くになんだろうか。私は電話に出ると、真綾の声が聞こえる。
「今なにしてる?」
「夜の学校で体を動かしてた。体動かしてないとなんだか落ち着かなくて」
「そ。暇なら出いいんだけど今日飲もうよ。私の家で」
「いいけど私酒飲めないよ?」
「いいよ。いるってことが大事なんだし」
「ならいかせてもらうよ。すぐ向かう」
私は用具をしまい、残っていた教頭先生に帰りますと告げて、出ていった。
「広瀬先生」
「はい、なんでしょう?」
「結婚、おめでとうございます。また、戻ってきてくださいね」
「あはは……。先生業はまだ続けますよ。こちらも本来はもっと前に休暇を取るはずだったのに結婚直前で休暇取ってしまってすいません……」
「気にするな。昔はどうだったか忘れたが今は法律も変わったからな。安心して子育てしなさいね」
「はい。ありがとうございます! では!」
「ああ」
私は車に乗り込み、エンジンをかける。
そして、学校を後にしたのだった。
真綾の家につくと、真野ちゃんと珠洲が先に飲んでいた。
「本日の主賓とうじょー!」
「もうべろべろに酔ってるの……」
私はコートを脱ぎ、たたんで床に置いた。
頭には少し雪が積もっている。
「雪降ってたんだ」
「うん。珍しくね。明日はホワイトクリスマスだってさ」
「交通麻痺しないといいんだけどね」
「雪国のような準備もないから雪は困る」
「たしかに」
これ今日帰れるか心配だなぁ。
タイヤはスタッドレスタイヤではないために、路面が凍っていたりしたら滑る可能性がある。結婚直前に事故を起こしたとか笑えないからやりたくない。
「はい、ぶどうジュース」
「ありがと」
真野ちゃんからぶどうジュースを手渡された。
私は一気に飲む。
「それにしても、美咲ちゃんが結婚かぁ」
「真野ちゃんはともかく、私は付き合ってる人いないからな。色恋沙汰に興味がさほどないっていうのもあるけど」
「私も結婚したぁい」
珠洲はべろべろだった。
真野ちゃんと真綾はセーブして飲んでいるのでほろ酔いっていう感じなのだけれども珠洲はセーブ?何それ美味しいの? って感じで結構グイっと飲むからすぐに酔う。
酒に弱い私のようじゃないけど。
「ってか珠洲よく時間作れたね。マスターアップ直前でみんな残業して仕上げてるって聞いたけど」
「あー、上司に今日だけは定時でってお願いしたー……。渋い顔してたけど……ひっく」
「まあ、ゲーム業界は何かと忙しいから仕方ないでしょ」
「ゲームってプレイする人は楽しいけど作る人にとっては大変だよね」
珠洲は大手ゲーム会社に入社していた。
それなりにゲームの才能もあるし、絵も上手でアートディレクターにすぐになったらしい。たまにゲームソフトを買ってくるのでそれをやると珠洲の絵だって思うのもある。
「真野ちゃんも女優業はどう?」
「私は子役からやってるのもあるけど普通かなー。不祥事とか周りであるから私だけは絶対にしないようにって決めてる」
「最近結構ニュースで話題に出るね」
「モデルでもいるでしょ?」
「売春とかするやついたよ。私は別に他人はどうでもいいけど」
「淡々と仕事こなしてそうだなぁ」
真綾はズバズバと物を言うので結構コメンテーターとして呼ばれることもあった。
真野ちゃんはというと、大人びた演技をするようになって、若妻役や、何でも知ってるお姉さん風の役をもらうことも多くなっていた。
「そういう美咲はどうなの? 先生としては」
「んー、ま、楽しいよ。今の高校は天才が二人いて困ってるけど」
「天才?」
「ほら、テレビでやってた柔道少女とか」
「あー、あの子。たまにテレビに取材されてるよね」
高校生の柔道では一番の実力を持ってるんじゃないだろうか。
男子にも勝るあの技術はどうやって培われたんだろう。
「あと、ものすごく頭が切れる子」
「パン子ちゃんだねえ」
「……まあうん。その子たちがいるから楽しかったよ」
「そんな子がいるんだ……」
教えていてそんなに退屈しなかった。
「ま、近況報告はこれくらいにして飲もう!」
「すでにべろべろに飲んでるあんたが音頭をとるな」