番外編 姉妹だから
私は過去にとんでもない罪を犯した。
そのことはお姉ちゃんは許してくれた。けど、私は、私はずっと……自分が許せなかった。なんでそんなお姉ちゃんは簡単に許してくれるんだよ……! 私は罰を受けるべきなのにッ……! それなのにお姉ちゃんはなんで許しちゃうんだよ! 怒ってよ! お姉ちゃんは怒ってもいいんだよ! 死んじゃえばいいって、私はいったのになんで言わせた自分が悪いってなってるの!
「はぁ……」
私は、幼稚園の先生になった。
お姉ちゃんが保育士に向いているよって言ってくれたから、私は保育士になった。
でも、やっぱり大変だった。子供の世話というのは手が焼けるし、ちょっとの事で泣いたりしてあやすのがとても大変だ。
でも、それはかつての自分を見ているかのようだった。気に入らないことがあったらすぐに泣きわめいているのが、あの時の私と同じに見えた。
「あーちゃんがぁー! あーちゃんがぁー!」
「あーちゃんがどうしたの?」
「あーちゃんがぼくのすなのしろをこわしたんだー!」
「あーちゃん。なんでそんなことをしたのかな」
「……うーちゃんがぼくにしんじゃえっていったからかっとなって」
うーちゃんという子がそういう風に説明した。
「あーちゃん。ほんと?」
「だって、だってうーちゃんぼくにいやがらせしてくるんだもん! あーしろこうしろだって……!」
「そっか。でもあーちゃん」
私はかがんで、あーちゃんの肩を掴む。
「死んじゃえって言葉を簡単に口にしたらダメだよ」
「ひっぐ……」
「言葉はさ、人を殺せる凶器だよ。そういうことを簡単に口走ったらダメだよ。……って、この言い方じゃわかんないか」
自分に言い聞かしているようにも思えていた。
ダメだ。やっぱり、死んじゃえっていう言葉を聞くとどうしても私が嫌になる。
「たしかにうーちゃんも悪いかもしれない。けど、死んじゃえって冗談でも言っちゃダメ。ね?」
「うん……ごめんなさい」
「死んじゃえって言われたうーちゃんには怒る権利があります。それを許せないのはダメ。どんな時でも死んじゃえってことは言っちゃダメ」
「……うーちゃんごめんなさい」
「ぼくこそごめんなさい……」
二人は仲直りできたみたいだった。
それが羨ましかった。子供だからこその純情さと素直さが仲直りさせることができた。けど、あの時はもうお姉ちゃんは大人で、私は子供だった。
素直さも、何もなかったお姉ちゃんだからこそ、私たちは本当の意味で仲直りできていない。
「もう一度謝ろうかな……」
どうすればいいなんてことはわからない。
どうしたらいいかなんて誰も知らない。だから、私は、私の考えられる限りのことをするだけ。お姉ちゃんはきっと、私を許してる。けど、私はずっと自分を許せない。
私は、お姉ちゃんに電話をかけた。
お姉ちゃんの家に行き、私は、お茶を出される。
「それで? 話って何かな」
「その、さ」
私は、正座に座りなおす。
「ごめんなさい。あの時、死んじゃえって言っちゃって」
「……もうそのことはいいよ。気にしてないからさ」
「ダメ。お姉ちゃんは気にしなくても、私はずっと気にしてる。お姉ちゃんは私を許さないでいいの。私を怒ってもいいの」
「それはできないよ」
「……ッ! なんでっ!」
私は、声を少し荒げていた。
「美鈴は、私の妹だから」
と、そう笑顔で述べたお姉ちゃん。
あの時も、妹と思ってくれていたんだろうか。死んじゃえって言った私の事を妹って思って接してくれていたんだろうか。
違う。私はお姉ちゃんにひどいことをしたんだ。思われるわけがない。
「お姉ちゃん嘘つかないでよ……。あんなこといった私をあの時も妹って思うわけないじゃん! だって自殺するのを決心させたのは私なんだよ!? 妹じゃなくてもういじめっ子だったんだよ!? なのに妹って思うわけッ…「美鈴!」
お姉ちゃんが怒鳴った。
そして、私に近づいたと思うと、私の頬を殴ったのだった。
「どんなことを言っても私の妹には変わりなかった。美鈴は妹だと思ってた。それを否定されるのは美鈴でも許さないよ」
「でも……」
「姉妹なんだから喧嘩だってするでしょ」
「……姉妹」
「どんなことを言われても美鈴は美鈴だった。妹だったんだ。だから、それを否定されるのはムカッと来るな」
「お姉ちゃん……」
「もう美鈴は自分を許すべきだよ。もう十分でしょ。保育士やってて何かわかったでしょ? もういいんだよ。ね?」
お姉ちゃんは私を抱きしめる。
私は、お姉ちゃんの腕で泣きじゃくった。子供みたいにわんわんと泣き続けた。私は、もう、自分を許せたような気がした。
美鈴が報われてほしかった
作者はハッピーエンドが好きです。