自分の頭で
私は、安部さんと一緒に楽屋を後にする。
そのあとを、新庄は追ってきた。私は、冷たい目を向ける。
「ほ、ほほ、本当に提出は……しませんよね? 脅し……ですよね?」
「有言実行が私のモットーだから。それじゃ」
新庄の恨み声が聞こえた。
殺してやるという憎悪の声も聞こえる。完全なる逆恨みだ。自分が悪くないと思い込んでいるんだろうか。やっぱり、救えない。
私は……真綾が傷つけられたことが許せない。真綾は……モデルの仕事が好きだったのにさ。それをしばらくできないようにさせるなんて……。
……はぁ。
私はため息しか出なかった。
真綾が入院している病院について、安部さんと一緒に行く。
病室前で、安部さんがどんどん過呼吸気味になってきていた。緊張……はするだろう。なにせ当事者の一人で、やってしまった罪の重さを自覚して、なお謝りにくる。
私でさえ緊張しているから。真綾は厳しいからなぁ。なんて思いながらも、大丈夫かと声をかける。
「だ、だいじょぶです……。は、入ります」
「わかった」
私は扉を開けると、美咲ちゃんと真綾が私のほうを向いてくる。美咲ちゃんはあからさまに笑顔になった。真綾は……わからない。
安部さんは真綾の前にいって、土下座していた。
「ま、真綾さん! すいませんでした!」
「……は?」
何が起きているのかわからないようだった。
私は、苦笑いを浮かべながら事情を説明することにした。
「真綾さ、誰かに押されて怪我したって言ってたでしょ? その犯人の一人」
「……ふぅん」
真綾の目が鋭くなった。
ちょっと怒ってる?
「犯人の一人ってことはもう何人かいるんですね?」
「鋭いね。新庄さんだよ。あの」
「……あのくそビッチか」
怒っているのはもう一人のほうらしい。
安部さんは一向に頭を下げ続けたままだった。
「……私は、やってはならないことをしました。やってしまった後、ずっと後悔してました。すいませんでした。本当に……すいませんでした」
「…………はぁ。謝りに来る分まだ可愛げはあるよ」
それはそうだ。
安部さんは自分が悪いと自覚している。けど……新庄は、していない。間違ったことをしていないと思い込んでるからなぁ。余計にいらだつんだよね。
「はぁ……。まぁ、まだ複雑骨折で済んだぐらいだからいいけどさ。もしあのとき私が死んだらとかそんなことは考えなかったの?」
「あ、あの時は…考えてませんでした」
「だと思ったよ。あの事件で、余計な人まで巻き込んでる。それはわかってるね?」
「はい……」
「このご時世、冤罪でも刑務所はいってる人は就職しにくい。あんたらは人の未来を奪ったのも同じだ。その意味が分かる?」
「わかります……」
「わかってるのになんでやったの? 考えることをしなかったからでしょ」
「その通りです……」
真綾は淡々と責める。
安部さんは、涙を流しながらそれを聞いていた。
「なら、今後気を付けるのはわかるでしょ。自分の頭できちんと考えろ。誰かに思考を委ねるな」
「はいっ……」
「私からは以上。せいぜい罪を償いなよ」
「ま、真綾さん……!」
真綾は、はあとため息をついた。
そして、親指を噛んでいる。
「安部と比べて新庄と来たら……。一緒の会社はいるんじゃなかったよ。安部よりあっちのほうが罪深いだろ」
「そこらへんは上手く話しておくよ」
「やったことは殺人未遂です。証拠もあるし、安部が証言するなら実刑は免れないでしょ」
その通りだと思う。
私は、安部さんにいくよといって出ていった。安部さんは何度も真綾に振り返って謝っていた。