真野ちゃんの気持ち
私は、ペットボトルを顔に当て、カメラに向かって微笑んだ。
「新発売! すっきり爽やかレモンソーダ!」
新商品のコマーシャルの撮影をしていた。
どうも真野です。最近仕事に復帰したということもあって結構仕事が満杯にいれられているんだよ。いやぁ、人気者って辛いね。なんて思わないとやっていけない。
撮影終了ですと言われたので、先ほど使っていたペットボトルのふたを開ける。そして、その中身を飲んだ。
余った分はもらっていいらしい。
「うわ、これ本当においしい。レモンの酸味と炭酸のしゅわしゅわが喉にくる」
普段炭酸は飲まないけれど、これなら飲んでも……。
美咲ちゃんも喜びそうだなぁ。なんて思いながら次の現場に移動するためにマネージャーである母が運転する車にのっかった。
「真野、最近のあなたの仕事ぶり何? めちゃくちゃ生き生きしてるじゃない。なんか嬉しいことでもあった?」
「嬉しいこと?」
「一年くらい前からものすごく生き生き仕事してるわよ。それまでは辛いとかそういう顔してたのに」
母がそういった。私は自覚はある。
多分、美咲ちゃんと出会ったからだろうか。そんなに熱狂的になってくれるなら、美咲ちゃんが見てくれているから頑張れたんだと思う。
美咲ちゃんと出会う前は、やめようかと思ってた。辛いし、友達もできなくて孤独だったから……。女優という地位を捨てて、普通に生きようと思っていたけれど、美咲ちゃんがいてくれた。
「友達が、できたんだよ」
「友達。今度紹介しなさい。お礼が言いたいわ」
「うん。わかった」
私はにっこり微笑んだ。
次の仕事はバラエティの撮影だった。
ゲストとして呼ばれ、撮影前に出演を一緒にしてもらう人たちに率先してあいさつ回りをして、本番に挑んだ。
バラエティっていうのは慣れないなぁと思いながらも、立派に対応してみせたと思う。
私は家に帰り、なんとなくA2Oの掲示板を開くと、驚くべきことが書いてあった。
「えっ……昨日緊急イベントあったの!?」
その掲示板には王たちの奮戦とか書かれている。
つまり、私以外の王はみんな頑張って戦ったということだ。なんてことだ。私はその時呑気に風呂入っていたじゃないか……!
昨日帰ってきて「ゲーム……は明日にしよ」と言った記憶がある。
バカだ私。一人だけ参加してない王って……!
なんか、はぶられたような虚しさが残った。
ううー! 参加したかったー! 呑気に風呂入ってなければよかったよぅ! 後悔しても仕方ないけど、でもやっぱり名残惜しい……。
「参加したかった……!」
私は枕をぽんと叩いた。