リュール男爵
王が執務室で作業をしていると目の前に女性が現れる。
転移してくるとは何者だと王はその女性を見た。すると、王は驚いて傅く。それは、アルテナ様だったから。
アルテナは少し怪訝な表情をしていた。
「何の用でございますか?」
「貴方の国の貴族って暴漢がいるんですね」
アルテナ様は皮肉を込めて笑う。
それを聞くと王は引きつった笑いを浮かべた。
「先ほど、学園でリュール男爵の息子に暴行を受けました。もちろん傷はつきませんでしたしやり返したんですけどね。ですがいきなり女性を口説いて、言う通りにならなかったら暴行するというのはいかがなものかと」
「……リュール男爵の子息か。息子のほうはたしかにいいうわさは聞いたことがない。処罰はする。すまなかった。うちの国の貴族がアルテナ様に」
アドバンス王は頭を下げた。
その時、宰相が執務室に入ってくる。宰相は頭を下げる王と女性をみて、女性を睨んだ。
「王が一人の女性に頭を下げるなど……」
「……宰相。それ以上言うとお前をクビにする」
「……ですが」
「王が簡単に頭を下げてはならないというのはわかるが、アルテナ様は別だろう」
「アルテナ様……?」
まじまじと宰相はアルテナ様を見る。
こほんと王が咳払いをした。
「不躾に見るとは何事だ」
「失礼いたしました。申し訳ございませんアルテナ様。まさかいらっしゃるとは思わず……」
「不問にします。警戒されて当たり前でしょうから」
一発見ただけでアルテナとは気づかれないのはわかっていた。絵画などで自分の姿は知れ渡っているけれど名乗らないと誰だと思われるだろう。
アルテナはそこまで短気ではなかった。男爵が不服なのは暴行してきたからだ。常識があるならば話は別。
「リュール男爵のご子息の処罰、早めにしてくださいね?」
「神に暴行を加えたこと。死罪が妥当だろうか」
「死神サティにでも魂を取らせますか?」
にっこり笑うアルテナ様。少し怒っているようだ。
その時の笑顔は冗談を言ってなさそうで王は少し背筋が凍った。神を怒らせた罰はとらせなければならない。すぐにリュール男爵を王城に呼ぶよう手配した。息子のウール・リュールを一緒に。学園に行っていたリュールは親父に呼び出されて不服そうにしている。
一日後、二人は王城に揃って上がる。
「……陛下。何の用でございましょう」
「とりあえず面を上げよ」
二人は顔を上げる。
すると、ウールは後ろに立つ昨日の女を見て叫びそうになる。王城だから我慢したけれど、王城じゃなかったら叫んでいたところだ。
「この女性、見覚えがあるな?」
「……昨日、護衛を襲った不届きものでございましょう?」
アルテナ様は、もっと怒りそうになった。
その怒気が謁見の間を包み込む。全員、背筋が凍るような思いをしていた。
「私が誰か、わかっていっておりますか? 昨日、自己紹介をしたはずですけれど」
「アルテナを騙っても無駄だ。俺には通じない」
王は冷めたような表情をして、アルテナ様はずっと笑顔でウールを見ていた。
その様子に気づいた男爵は口をパクパクさせていた。
「親父もなにしてるんだよ! 襲われそうになったんだぞ!」
というと、親父はウールを思い切り殴りつけた。
「お前、やってはならないことをしたな」
「はあ? 何言ってんだよ。俺が何かしたって……」
「してるわ今現在! お前……我ら一族を路頭に迷わせたいのか?」
アルテナ様はそれを聞いて少し溜飲を下げていた。この男は息子と違い頭がいいんだと。処世術も身についていそうだと思っていた。
「我らは処刑されてもおかしくない! いや、されるだろう」
「息子とは違い頭がいいようだな。リュール男爵」
王は笑う。
「……なんでだよ親父! 俺は悪く」
「お前が悪いんだよウール! ここまで言ってまだわからんのか!」
「ああ。アルテナ様によるとお前は口説いて失敗した後、護衛に襲わせたそうだな?」
「違います王。口説いたのは事実です。ですが、最初に仕掛けてきたのはそちらのほうで」
アルテナ様はどんどん不機嫌になっていった。
その表情を読み取った王とリュール男爵。リュール男爵は息子を思い切りぶん殴った。王はそれを看過するように見る。
「いくら父がよくても息子がよく育つとは限らないものだな」
「その通りです陛下。私は……子育てに失敗いたしました。喜んで処罰をお受けいたします」
「なら……」
王は処罰を告げようとしたとき、アルテナ様が前に出る。
「息子のウールは処刑。リュール男爵は許します。お咎めはありません。ぜひ、今後も頑張ってください」
「……はっ」
「アルテナ様。いいのですか? 私の息子が不快を与えたようですが」
「息子に責任はあれど父親に責任はありません。心を読みましたがいい人物のようですから」
「……ありがたき幸せでございます。アルテナ様。私、リュール。もっと精進いたします」
そして、ウールは騎士に連れていかれ、リュール男爵はほっと胸をなでおろした。
「陛下。この度は申し訳ございませんでした。いらぬ苦労を掛けてしまい」
「いい。アルテナ様が許したのだ。私が何か言うまでもない。それに、そう思っているなら国の為に頑張ってくれるとありがたい」
「はい。国のためならばこのリュール。身を粉にしてでも働いて見せます」
アルテナ様は満足したのか、転移してミキのもとにむかった。