特異点になりたくない
真野ちゃんは椅子に座った。
それを見計らって真綾が真野ちゃんに問う。
「真野ちゃんは……いじめについてどう思う」
「いじめ?」
「誕生日にする話じゃないけど……ちょっと参考までに」
真綾は顔を背ける。
ハチのこと、真綾には話した。真綾はそれからずっといじめについて考えてるみたいだ。私は答えを言わない。言えない。
真野ちゃんは、少し考える仕草をした後、言った。
「いじめは仕方ないことかもしれない」
「……仕方ない?」
「人間って種族の都合上、誰かを妬んだり、嫉んだりとか負の感情を抱えるのは事実なんだしさ。たしかにそれを表面上に出すのはよくないかもしれないけど感情の抑制ができない子供が人を苛めるのは半分仕方ないことだって思ってる」
「……仕方ない」
「でも、それでもいじめられる側が悪いっていうやついるのは気に食わないかな。何か悪いことをしてそれが報いでいじめられるならまだしも、何も悪くないのにいじめられて、それでいじめられる側が悪いっていうのは気分がよくないよね」
真野ちゃんの答えはそうだった。
だけど、私はちょっと違う。私は「みんながやっているから」だ。みんながやっているからいじめる。現に私がそうだった。
原田と霧崎さんのそれぞれのグループのトップが私を苛めるから自分もいじめていいんだとみんなが錯覚したんだと思う。多分、二人さえいなければ私のクラスは私を苛めなかった。原田と霧崎さんが私を苛めるから私を苛めてもいいだなんて風潮が出来上がる。誰かがやっているなら自分もやっていいだろうという周りに流されて私はいじめられたんだと思う。
真野ちゃんはそれは一人だけがいじめをするタイプ。私はみんなにいじめられていたから多分違うんだと思う。
「一つ言っておくと私はいじめられたことがないからよくわかんないよ。私の答えは多分間違ってる」
否定したくないけど、ちょっと否定する。
たしかに、間違っていると思う場面もある。
「……真野ちゃんはここで私に振らない辺り優しいですね」
「……だって嫌だと思ったから。ね? 美咲ちゃんとかいったらさ、美咲ちゃんに失礼だし思い出したくもないでしょ……?」
「まぁ……。でも、真野ちゃんは優しいので、私、ヒントだけいいますよ」
私は考える。
いじめる原因は何か、と。主犯の考えは真野ちゃんの答えでいいと思う。なら周りは?
「特異点になりたくない」
これに尽きる。
みんないじめてるのに自分だけ苛めないで庇う、というのはひどく異端な行為だ。異端は淘汰されるしかなく、標的が自分になりうるかもしれない。
なら、一人をいじめ自分がいじめられないほうが身のためだ。いじめに加担するのが一番特異点ではない。見てみぬふりも、いじめだと思っている。
見殺し、という言葉があるように見ているだけっていうのも罪なものだ。
「私の答えはこれだよ。でも、人によって答えは千差万別あるし一概に私の答えが正しいってわけじゃない。参考までにしてほしい」
私は真綾に向けてそういった。