真野ちゃんの誕生日
今日はこの一話のみです。
寝坊した作者を恨んでください。
六月に入った。
三日の日、病室にその人は訪れた。
「真野ちゃん! 誕生日おめでとうございます!」
お見舞いに来てくれた真野ちゃんにソマリさんに買ってきてもらったお土産を渡す。
あのヘッドホンを渡すと真野ちゃんは喜んでくれた。ありがたいことに。真野ちゃんはヘッドホンをよく使うって言って最近不調だったから買い替える予定だったそうだ。
そこにこのヘッドホンときたから相当助かったらしい。
「いや、ありがとね。真綾も。二人に祝ってもらえるって嬉しいよ」
「真野ちゃんの誕生日ですからね!」
「まぁ、この歳になると誕生日もそれほど嬉しくないと思うけど」
「そんなことないよ? 免許取れる年齢にはなったしぼちぼち通ってこうと思う」
そっか……真野ちゃん免許取得できる歳になったんだなぁ。そう思うとなんか感慨深いものを感じる。小さい時から子役として活躍しててそこから私もファンになって……。
ファンになって10年は経つなぁ。真野ちゃんもここまで成長したんだなぁ……。前までは事務所に誕生日おめでとうのメッセージ送るだけで読んでもらえてたかわかんないけど今年は言えた。そのことが嬉しいな。
「でも時がたつのは早いもんだね。私ももう18歳かぁ」
「……私ももうそろそろだから」
「……私は三月まで待たないと」
「そっか。早生まれなんだ」
三月十日。私の誕生日。祝ってもらえたことはないけれど、でも歳をとるのはまだ嬉しいもんだと思う。歳を重ねてって、大人に近づけてると思うから。
二十歳になったらなにしようかな。タバコは吸わないけど酒は飲んでみたいな。ちょびっとだけ。お酒怖くて迂闊に手を出したくないけど。お母さんが弱いからきっと私も酒弱いの受け継いでると思うんだよね。
「でも、ようやく18になれたよ」
「……まぁ、ようやくといえばようやくか」
「うん。18歳になったらって決めてたことがあるんだよね。女優人生をもっと謳歌したいなって。女子高生の演技だけじゃなくて演技を選ばないでやりたいなって思ってた。18になったらね」
「……たしかに今まで女子高生の役だけだったような」
「女子高生しかわかんなかったからだよ。お酒も飲めないからさ。そしてミステリーの殺人犯のような演技も受けなかった。いじめっ子の役は受けたけどね」
「そのいじめっ子の役は主役だったじゃないですか」
「まぁ、そうだね」
真野ちゃんは笑う。
「だけど、私は今度は演技を選ばないようにするよ。刑事役あるならそれもやっていいし、殺人犯なら殺人犯の役でもいい。18歳になったら演技の幅を増やすって決めてたんだよ」
「……よかったですね」
「うん。とてもいい気持ちだよ。新たな演技に挑戦できるってなんか燃えるよ」
真野ちゃんは笑っている。目はまっすぐとしていた。決意は固く、そして楽しそうだった。
「実は悩んでたんだけどさ。私に演技の幅増やすことはできるのかって。そう思ったんだけど今日、プレゼント貰ったらやる気出た。ありがとね」
「えっ、いや、そんなっ……!」
「あー、すっきりした。悩みが吹っ飛んだよ」
真野ちゃんは、ものすごい笑顔だった。