牙を立てる理想郷 ②
攻撃をしてきたのはゴブリンだった。
ゴブリン……? こいつが理想郷の力を独り占めしているっていうのか? だとすると……穢したってこいつのことを言ってるんじゃないだろうか?
魔物=穢れということなんだろうか。
すると、突然私の体から煙が巻き上がる。
煙が明けると私の体が元に戻っていた。時間経過で幽霊状態治るんだ……。とまあそれはおいておいて。私の姿を見るとゴブリンは目を見開いて驚いていた。
ゴブリンは剣を捨て、私の元に近寄ってくる。
「お前、神さんか?」
「……まぁ、そうだけど」
そう答えると腕を掴まれた。
「ちょっとついてこい」
引っ張られるがまま、私は移動していく。
チリン達はぽかんと立ち尽くしていたままだった。
連れてこられたのは洞窟だった。
薄暗い洞窟。躊躇なく中に入っていく。潮水なんてものはないな。さっきまで海に入っていたとは思えないほど。
中に入っていくと広い空間にたどり着いた。その真ん中で誰かが椅子に座っている。なにか裁縫をしているようだった。
「アリエル。迎えが来たぞ」
「迎え……?」
その人はアリエルと呼ばれた。
天使の翼がない。いや、ある? 焼け焦げている。燃え尽きた後なのか黒い何かが背中についていた。
「……神様?」
「う、うん。そうだけど……天使の羽根は、どうしたの?」
「え? えっと、力の使い過ぎで負荷がかかってしまって……焼け焦げました」
この天使の身に何が起きたんだよ。
天使は苦笑いを浮かべて自分の羽根をぴょこぴょこ動かす。
「……神さんよ、こいつの羽根、どうにかならねえか?」
「原因がわかんないし……力の使い過ぎで焼け焦げるっていう話は聞いたことないんだよ」
「……神さんでも無理かよ」
ゴブリンは椅子に座る。
ゴブリンは足で蹴って椅子をこっちに寄越した。乱暴だなぁ。と思いつつ座る。
「……で、詳しく聞かせてもらいたいんだけど何があった?」
「そう来ると思ったぜ。まぁ、いいだろう。話してやる」
ゴブリンはそういうと、アリエルのほうを向いた。暗い表情のアリエル。ゴブリンは頭を掻いた。
「ここは理想郷だっていうのはいいだろ?」
「うん、まぁ」
理想郷だったと記されていたし。
「人間の欲深さが招いた事件がきっかけだ」
「事件?」
「ここの人間は理想郷に住んでいるということで周りを見下していてな」
「うん」
「理想郷の力を使って魔物を創れないか、そう考えだしたわけだ」
……魔物を?
なぜ魔物を創り出す意味があるんだ? 魔物を創っても意味がないんじゃないか。
「その過程で俺が生まれた」
「……魔物を創り出す意味がわからない」
「それはそうだろう。だけれど、魔物ってどういう存在かわかるか?」
「人間を襲うもの……。あっ」
「気づいたか。そう、ここのやつらは謀反を起こそうとしていた」
自分たちだけに従順な魔物がいてそれを王都に差し向ければいいんだ。
魔物のせいってことで失敗しても罪にはならない。自分たちのせいじゃないからな。
「俺は生まれて檻に入れられていた。だけど粗末な檻でゴブリンだからたいして問題視もされなかった。だから俺は探検していたんだよ」
「ほう」
「するとな、ある部屋にたどり着いたんだ」
「……ああ、なんとなく察した」
「アリエルが捕らえられていたんだよ。人間はアリエル……天使の魔力を媒介にして魔物を創り出していた。天使の魔力と理想郷の力が合わさって魔物が生まれることもわかった。苦しむアリエルを助けようと俺は理想郷の力を全部吸い出したんだ」
「……やっぱりか」
天使の力というのはどこの世界でも魅力的なものなのか?
アリエルの翼が焼け焦げたのもそのときだろう。純白の翼が焼け焦げる。天使としての絶望だよね。アリエルの表情は未だに暗い。天使の羽根だったものをいじっていた。
「アリエル。帰りたい?」
「……はい。み、みんなに会いたい、です」
「そっか。わかった。じゃあ、向かおうか」
「でも……私は飛べません。飛ぶ羽根も……ないんです」
「迎えを呼ぶよ」
私は二人の天使を呼び出した。




