動物が好き
あの時のことを思い出す。些かいい思い出ではない。
思わず苦い顔をしてしまった。ハチはそれを見て自分がいて迷惑と感じたのか「ごめんなさい」と何度も平謝りをしてくる。
「ハチが悪いわけじゃないよ。私も昔を思い出しただけ。今日は目いっぱい遊ぼうか。ほら、いこ?」
私は手を差し出した。
差し出した手を受け取ってくれる保証はどこにもないし、十中八九受け取ってはくれないだろうなと踏んでいたけれど、予想は外れて、素直に私の手を取る。
ハチは私と遊んでくれるようだった。
「ハチ。そのレベルからして初心者だね。じゃあ、ボスでも倒しに行く? ゴブリンキング」
「ま、任せます……」
「任せられてもダメだよ。ハチ。ハチ自身が決めようか」
私はきっぱりとそう告げる。
優しくしなくちゃいけないのはわかっている。けれども、いじめられていてそんな消極的でどうするんだと思ってもいる。
本来はいけないことだと思っている。消極的なのは仕方ないと思っている。でも、この子は多分性格上下手に回るタイプだ。いじめられてるからとかそんなのは関係なく。
「ハチが主人公のゲームだからハチが思うようにプレイしないと。ここはゲームだよ。人によってプレイスタイルは違うからさ、ハチ自身の楽しみ方をしてもいいんだよ」
「私自身の……?」
「周りからも縛られない自分だけのゲームだよ。そんな自由なゲームでも消極的でどうするのさ。ゲームの中だけは積極的にいこう。私もハチに付き合うよ」
「な、なら……!」
乗馬スキルが輝いている。
やりたいこと。馬に乗って駆けてみたいということだった。私は乗馬スキルを教えてあげて馬を買ってあげる。
ハチはどうやら生き物の類が好きらしい。
「ふあああ! スピード感がすごいです! 速い! ゲームなのに風を感じるッ!」
と、笑顔で馬を走らせていた。
馬を走らせていると急にこっちを向いた。
「ミキさん! すごいです! 速いです!」
「そうだね。よそ見してると落馬す」
その時だった。
ハチの体がぐらつき、そして地面に落ちる。そしてポリゴンとなって消えていった。ああ、落馬ダメージ受けたな……。初心者でレベルが2っていうこともあり体力が非常に少ないので乗馬スキルでの落馬ダメージで即死圏内なのか。
私は急いで噴水広場の前に戻る。
「し、死にました……。すいません。熱狂してたもので……」
「いいよ。けど、動物好きなんだね」
「はい! 昔から動物に触れ合うのが夢でした! お母さんが猫と犬アレルギーなので家で飼えないから一人で動物園通ってたんです」
「え、ここ近くの動物園って電車で一時間くらいかかるんじゃ……」
「あはは。でもそこまで財力もないので月に一二回程度でしたけどね」
それでも結構かかるでしょ。
でも、動物の話題だと結構饒舌だな。いじめられていて消極的だったとは思えない。やっぱり好きなことに熱狂すると忘れられるのかもな。
「好きな動物ってなに? 私は狐が好きなんだよ」
「えっと、一番は決め難いんですけどしいて言うなら……猫でしょうか」
「猫ね。いいよね。スコティッシュとかペルシャとか」
「三毛猫が一番好きです」
三毛ね。わかる。
「マンチカンとかロシアンブルーとかも可愛らしいんですけどね……」
と、口角を上げて笑う。
案外単純だなこの子。