人は裏切るから
珠洲と地衣が血相を変えていた。
「美咲! 頼みがあるんだよ!」
「頼みぃ?」
地衣と珠洲は頭を下げる。
テスト勉強を教えてくれとかそんなん?
「その、いじめのことは知ってるでしょ? そのいじめられた子を助けてほしい!」
「私からも頼む! 地衣の友達なんだ。救いたい」
と、お願いされたのだった。
まぁやぶさかではないけどさ。見ず知らずだけどいいのかな。信用してもらえるかどうかわからないし疑心暗鬼になっていそうで怖いんだ。
まぁ、頼まれたからにはやるけどさ。
「でもどうやって? 私こんな体だから遊びにもいけないんだけど」
「A2Oやってるから……。そこで元気づけてっていうか、助けてあげて欲しい。彼女、今さ、疑心暗鬼状態で。ゲームを進めてミキっていうプレイヤーに助けを求めろって言ってさ……。その、助けてあげて欲しい。相談に乗ってあげて」
「……ゲームね。まあいいよ。なんていうプレイヤーネーム?」
「ハチって名前」
「わかった」
私は早速ヘッドギアをつける。
「第一層エリアにいるから!」
「あいさ。そこまで行けるのかな」
とりあえずログインした。
第十層は気になるけど……一応神域だけはどこかに設置しておこう。まずガシャドクロを倒したときにでた異世界の扉で第十層に向かう。
なにかデカい建物の前についた。そんなことは気にせずに神域を設置し、その中に入った。
私にはこういう移動手段があったんだ。第一層に設置した神域から出てハチというプレイヤーを探す。すると、暗い表情をして噴水の前に座っていた。
「……ハチさん。どうも」
「……えっと」
「ミキだよ。本当は現実で相談に乗ってあげれればよかったんだけどね。私怪我してるから」
「ハチ……です。どうも……」
おずおずと手を差し出してくる。
悪い子じゃないと思うんだよな。
「……どういういじめを受けてたか、聞かせてもらっていい?」
「……いい、ですけどっ。でも、同情だけは……!」
「しないよ。するわけがないよ。できないし」
同情はできない。
彼女が求めているのは助けだと思う。今の現状から助けてくれる人。それこそが彼女が求めているものだ。
「まぁ、君だけに話させないから。私も過去のことを話すよ」
「過去の事……?」
「私もね、いじめられてて自殺したことあるんだよ」
私は彼女に聞かせるようにゆっくりと話し始めた。
私もこの子を救いたかった。私と同じ境遇にいる子。いじめられて、自殺しかけて。それでもなお助けに縋る子。昔の自分を見ているみたいだったから。
「世の中、敵だらけに見えてたよ。あいつも私に暴力振るうんじゃないか、いじめるんじゃないかって疑心暗鬼になっててさ。高校に入って一年は人を信用することはできなかったんだ」
「……わ、私もっ! 私も人は信用できません……」
「それが正しいんだよ。あんなことされて信用できるならそっちのほうがどうにかしてるよ」
必要なのは割り切りかもしれないな。
人間はこんなことするってのを第一前提に置いとく必要がある。私の場合珠洲がいて、地衣がいたからまだ助かったのかもしれないけどさ。
「ま、私ができたんだからハチにもできるだろうとかそんな無茶は言わないよ。人を信用しなくてもいいんだ。上手くやれればそれでいいんだよ」
「そう……ですか?」
「そりゃ最低限は必要かもしれないけど、無理に信用していいわけがないよ。本当に自分が心から信用したいと思う人ぐらいにしたほうがいい」
残酷な真実だ。
「人は、裏切るから――」




