先生のどこがいけなかったのか
アプデが明けてログインしようとヘッドギアをかぶろうとした。
『えー、昨日未明、〇〇県鵜坂市鵜坂西高校で自殺未遂事件がありました』
……は?
テレビで報道されたニュースを見る。これ、うちの高校じゃん。自殺未遂ってなにがあったんだろうと聞いているといじめがあって飛び降りたらしい。本人は足の骨を折るだけで済んだらしいけどいじめがあったことが発覚。調査が入るらしい。
「……いじめねぇ」
ヘッドギアを横に置く。
さすがに今これ聞いてやる気がごっそり減った。うちの高校で起きたっていうこともあってちょっと心配になってくる。珠洲とか地衣とか。大丈夫なのかな。
と、その時、病室のドアが開かれる。
「広瀬。話がある」
と、伊東先生が真剣な顔で私に訪問してきたのだった。
もしかしなくてもいじめのことじゃないだろうか。私に何を聞くかっていう話になるけどさ。いじめなんて私は一切合切知らなかったし何も話せないけど。
「話……というより相談だし、本来、教師が生徒にこんなことを相談するのはまちがってると思う。だけど、聞かせてほしい。いじめのことは知っているだろう?」
「さっき知ったばかりですけどね……」
「その、いじめのことで広瀬に相談しに来た。その、ここでは年齢とか教師生徒の関係とかなしで、友人としての立場で聞いてもらいたい」
「??」
「広瀬は、いじめについてどう思ってる?」
直球に聞いてくるなぁ。
先生は私がいじめられてたことを知っているんだろう。それで私に聞きにきたのか。それ自体褒められたことじゃないけど……。でも、経験者の話も必要なんだろうなとは思ってる。
先生だって手探りでやるわけにはいかないし経験談をもとにしたいという気持ちもあるのかな。
「いじめは許せないとは思いますよ。どんな理由があろうと人が人に暴力を振るうのはいけないですし」
「そうか……。そうだよな……」
「先生。本当はそういうこと聞きに来たわけじゃないでしょう?」
「……そうだ。広瀬。先生たちは何がいけなかったんだと思う? 前々からいじめは認知していたし、当の本人からも相談を受けていた。自殺したいっても言ってたのを知っていた。どこで間違えた……?」
「……まず自殺を引き留めるときなんて言いましたか?」
「バカな真似やめろ……と」
……まぁ、それ言われたくないわなぁ。
「じゃあ責めますけど、バカな真似するまで放置していたことがまず問題でしょ。本人から相談を受けていて自殺を止められたからそれでいいやなんて思ってませんでしたか? こういうのは相談を受けたら迅速に解決するべきなんですよ。ゆっくりやるなんてまずありえません」
ゆっくり対応していたら不信感、不満感が募っていくばかりだ。相談したのに現状は何も解決されないと思うばかり。
事を逸してはもう遅いのだから。
「ゆっくりと事を運んでいたら手遅れになるのは目に見えたでしょう。いじめられてる子は時間がないんです。嫌な現状を早くでも打破したくて相談したんでしょ。それを踏みにじってるのは一時的な自殺を止めたことに満足感を覚える先生方ですからね」
いじめられないと時間がないということがわかる。
私だって嫌な現状から逃げたかったんだ。それに、自殺したいっていうのは本当に相当なことがあったんだろうしな。
「伊東先生。大丈夫ですか?」
「……ああ。大丈夫だ。その、やっと気づいた。生徒に言われて気づかないなんてバカな教師だ。周りも、俺も」
「……まぁ、教師だって人間ですし面倒ごとに関わりたくないっていう気持ちもわからなくはないんですけどね」
「だが、教師という職に就いた以上はやらなくてはいけないんだ。ありがとな」
「いえいえ。というか、今お礼言うくらいなら帰って犯人捜しでもしたらどうです? 慈悲はいりませんよ? 退学処分もしていいくらいだと思いますよ」
「……それは」
「人を間接的に殺しかけたようなやつに慈悲はいりませんよ」
「……それもそうだ。わかった。ありがとな。相談に乗ってくれて。俺は帰っていじめの主犯を探すことにする」
と、先生が立ち上がって帰っていった。
私は、一人ため息をついた。伊東先生は過去のような先生になってほしくない。だから私はここまで言ったんだろうな。
先生は生徒から頼られる存在だから、その分の働きはしなくちゃいけないと思うんだ。
「ゲームするような気持ちじゃないしなぁ」
テレビを消して寝ようとすると今度は地衣と珠洲がきたのだった。