閑話 広瀬先生の酒事情
車を運転していた。
車内では好きな音楽が流れていて、とってもゆったりとした気持ちで運転している。今日も今日とて疲れたー。体育を教えることはいいんだけどそれ以外の業務がねえ。
「まさか広瀬と一緒に教える日が来るとは思わなかったよ」
「私もまさか先生が教頭になってるって知りませんでしたよ」
私の高校のときの担任が教頭になっていた。
私は教頭になった先生と一緒に飲みやに向かっている。教頭って大変らしいね。一番最初に来て一番最後に帰らないといけないらしい。
鍵の関係でだ。
「昔の教え子とこうして一緒に教え、飲める日が来るとはな……。感慨深い」
「ま、私お酒一滴も飲めないんですけど」
「もったいないな。大人になったんだから飲めばいいのに」
「一回は飲みましたよ? その時手痛い失敗したのでそれ以降飲まないようにしています。今日飲んでみますか? 私の家から近い飲みやにしますので家に車置いてきますから」
「よし、わかった」
☆ ★ ☆ ★
美咲はとりあえずビールを注文していた。
先生――伊東先生も同じくビールを注文する。そして、ビールが来ると美咲はビールをごくごくと飲み始める。
すると、一気に顔が赤くなった。
「せんせぇ~、教頭のなのにはげてなぁ~い~」
すでに酔っぱらっていた。
「……なるほど。もう酔ってるのか」
美咲は酒に弱かった。雰囲気とかは大丈夫なのだけれど酒を一杯でも飲むと酔っぱらってしまうという特殊能力があった。特殊でもないが。
酔った美咲はビールを一気飲みする。
「おい一気飲みは危険だぞ!?」
「酒はいっきにかぎう!」
呂律も少し回らなくなっていた。
「なるほど……。こりゃダメだわ……」
伊東先生はため息をついた。
「仕事たのひいひもうらいこうっ!」
「はいはい。ほら、座りなさい。目立ってるから……」
「むかひからわたひはめだってないのへここへめだっておかへは……!」
「何の使命感だよ!」
美咲は机に脚を乗せる。
褒められたマナーではないけれど店の店員はにっこりと笑ってみていた。きっと『ああ、そういえば広瀬さんの家系って酒弱いんだっけ』と店の店員が母の知り合いということもあり笑っていた。
周りも驚いてみてはいるけれど責めたりはしない。顔が可愛いからというのもあるだろうけど、みんな酒が入っているからだった。
「咎めない店員も店員だろう……!」
「先生のんでう~? まだジョッキ減ってなぁ~い~」
「の、飲んでるから絡むのやめろ」
「一気、一気、一気」
「一気コールもやめろ!」
伊東先生は誓う。
もう、広瀬に酒は二度と飲ませないと。




