全部全部捨ててしまえ
家族との確執も、珠洲たちへのちょっとした不信感も全部全部捨ててしまえ――
笑って過ごせるならもういいや。
以前とは違って笑えるのなら誰もかも信じないというのは捨ててしまえばいい。大人になるだなんて言っていた。大人になるというのはこういうことを指すのかな。
「珠洲。私はもう疲れた」
「……え? 人生に?」
「いや、信じられなくなることに」
こうして笑えているのは珠洲たちのおかげだ。こうして入院はしているけれど過ごせているのは家族のおかげだ。これで怒るだなんて私は最低の人物だ。
昔は私を肯定してくれる人はいなかった。だからこそ信用できなかった。けれども今は周りは肯定してくれている。それが何よりも嬉しくて――
「ありがとね。今まで。そして、これからもよろしく」
「う、うん……」
「わ、私お邪魔かなー?」
「地衣。地衣にも本当に感謝してる。高校一年生のときからずっと……。ありがとね」
「――っ! わ、私こそだけどっ……!」
お礼を言うなんて恥ずかしい。面と向かって言うのはなんだか照れ臭い。
でも、伝えないといけない。言わないでも分かるなんてことはないから。言って伝えるしかない。感謝の気持ちは、言葉で表すべきだ。
なんか……すっきりした。言えた爽快感がすごい。
「美咲が大人に見えるんだけど……」
「もう十分大人でしょ……。私たちが逆に子供っていうか」
「成長するの早いよぉ。足並みそろえたかったのに」
「まだまだ私は子供だよ。高校生だし」
「精神の話だよ!」
先生も言ってたけど私そんな大人っぽいかな?
高校生っぽいとは思ってるけど。スイーツだって好きだし、なんなら運動するのだって若い証! 年老いていくと体動かすのおっくうになりそうじゃない? ね?
「大人っぽいとかいうけど大人の定義はどんなんかわかってる?」
「…………」
「大人って二十歳越えてから? 大学出て就職してからが大人なのかな。お酒やたばこが吸えるようになって大人? 大人の定義って曖昧だからわかんないね」
「それ言える時点で大人だと思うですけどね」
「そうかな? 私から見たら十分地衣も珠洲も大人だよ?」
結局は主観でしかないということだ。
つまりまだまだ私は子供。子供ということは成長だってする。気持ちも、それと胸も。たぶん、成長する。きっと、成長する。ぜったい、成長する。
「そう……お前らは十分大人なものついてんだろう!」
そういって珠洲のおっぱいを叩いた。
「前から思ってたけどなんでこんなデカいんだよ! 嫌味か!? 嫌味なのか!? 新手のいじめか!? いじめ断固反対!」
「ちょ、痛いんだけど!?」
「私が大人ならこんな胸貰えるよねえ!? 大人ってみんなでかいもんね!?」
「いや、貧乳の大人もいると思うけど……」
「聞こえない! 貧乳はみんな子供! 大人っていうのはおっぱいがでかい女性だよぅ!」
私が定義を固定化してやる! おっぱいがでかい女性が大人だって!
悔しい……! 私だってこんなふうに成長するからな! 見ておけよ!
ようやく美咲が過去から解放されたかもしれませんね。原田との因縁は残ってるでしょうが美咲は珠洲も、地衣もみんなみんな信用し始めました。本当の意味で。




